商社の仕事人(84)その3

2021年03月8日

日本紙パルプ商事 堀本育哉

 

世界中の「紙」をめぐる冒険は、

まだ始まったばかりだ!

 

 

その先へ一歩踏み込め!

いくつもの「枠」を乗り越えて印刷用紙部の国内営業を活性化させた堀本は、2016年から国際営業本部の一員となった。国際営業二課に配属された堀本が担当するのは主にアジア地域。冒頭で触れたモンゴルの印刷会社への巻取りと輪転機の導入提案もこの部署での仕事である。

国際営業本部への異動は、堀本の希望に沿ったものだった。入社から七年に及ぶ国内での営業を経て、全く異なる環境に身を置き、自分自身を成長させたいと考えるようになったのが異動を希望した理由だ。ただ、堀本のTOEICのスコアは国際営業を任せるにはいささか物足りない数字だった。そこで、堀本はまず社内の海外研修生制度に応募することにした。応募資格はTOEICスコア600点以上。その半分程度のスコアだった堀本にはやや厳しい数字だったが、ここでも自らの「枠」を乗り越えた堀本は、3か月の特訓を自らに課して見事600点をクリアする。しかし、その努力も虚しく、堀本が海外研修生に選ばれることはなかった。

「これからも永遠に国内営業か……」

海外への想いが膨らんでいただけに、目の前が真っ暗になったという堀本。だが、努力は人を裏切らない。印刷用紙の新たな国内営業プロジェクトや古紙再資源化、電力の販売での成果、目標としたTOEICスコア600点の獲得……そんな堀本の前向きな姿に、会社はしっかりと応えた。次の人事異動で、国際営業本部への異動を命じたのだった。この急展開に唖然とする堀本に対して印刷用紙部の上司は笑いながらこう告げた。

「希望していたのだから、頑張ってやりなさい。会社っていうのはこういうものだよ(笑)」

こうして国際営業本部に異動した堀本は、当初は駐在拠点や現地法人の実績、販売計画など、ひたすら資料作りを行い、地域と商材の傾向を把握するとともに、課長や課員と同報された英文メールをネット辞書で翻訳しながらビジネス英語の習得に努めた。

「課長も相当困ったんだろうと思います。席も課長と課長代理に挟まれてマンマークされました(笑)。いくら600点をクリアしたといっても、TOEICのスコアはあくまでも点数、会話などできません。ですから毎朝、ラジオ講座で必死に勉強しました」

こう語る堀本だが、7年間の国内営業は無駄ではなく、「紙に関する知識は国際営業二課の中でいちばんあった」と言う。そうした実績を背景に、めきめきと上達した英語力も認められ、半年を過ぎた頃にはタイに紙を売り込むミッションを託された。

海外市場における日本の紙の位置づけは、「ハイスペックだが高価格」。そこで日本国内ではワンランク低い紙を、現地ではハイグレード向けに提案するなど、紙質と用途の工夫が欠かせない。ここでもやはり、1年目から徹底的に叩き込んだ紙と印刷の知識が大きくモノを言うことになった。

「それまで自分が国内でやってきたのは、紙の市場が縮小していく中の営業。ところが海外、特に成長途上の東南アジアは紙の需要が旺盛で、注文がひっきりなしに入ってくるんです。売る側としてもこれはやりがいのある環境ですよね」

国際営業本部で堀本に任された業務は、現地スタッフが集めてくる引き合いに対し、日本側から提案を投げ返すというもの。だが堀本は、そこからもう一歩踏み込み、自分から進んで国内製紙メーカーと海外エンドユーザーを結びつけるビジネスを展開していく。例えば、タイで最大手の文具メーカーが販売する高級ノートへの提案営業がそれだ。

堀本はある日、現地スタッフから「文具メーカーが高級ノート用の上質紙を探している」という情報を受け取った。そこからは、現地スタッフに先方とのやり取りを任せるのではなく、現地スタッフとの二人三脚での情報取集に取り組み、先方が求める品質・具体的な条件の確認を行った。

その結果、その文具メーカーはシャープペンシル、ボールペン、万年筆など、筆記具を選ばず心地よく書ける紙を求めていることが分かった。

この要求を満たすのは、ほどよくインクが滲み、なおかつ滑りのいい紙―。

堀本は心あたりのある国内製紙メーカーに声をかけ、候補となる紙を提案。タイの文具メーカーからのフィードバックを国内製紙メーカーに伝えてはテストを繰り返し、およそ一年かけて製品化にこぎ着けた。国内製紙メーカーにとっても初めての日本からの輸出となる、書き味に優れた新しい上質紙。その上質紙を使ったノートは現地での評価も高く、出荷量はいまも伸び続けている。

 

紙ビジネス、可能性への夢

「ハイスペックだが高価格」が特徴の日本製の紙だが、海外には強敵も多い。例えば豊かな森林に恵まれた北欧やカナダの紙は、針葉樹から取れる長い繊維が特徴の一つだ。これにより極めて強度の高い紙を作ることができ、丈夫さが求められる分野で高い優位性を持つ。だが、堀本はその牙城を崩すべく、強度を求める海外市場からの要望を国内製紙メーカーにフィードバックし、強度の高い紙の開発と営業を提案。2018年10月に完成した高強度の日本製の紙は、寒暖差に耐えうるノート用途として海外市場に向けた強力なビジネスアイテムとなった。

幅広い視野を持ち、紙のスペシャリストとして柔軟に「枠」を乗り越えて営業を行う堀本。そんな彼が強く希望したのは海外駐在である。学生時代に研究した「開発経済学」を現実のものとするため、駐在先の途上国で新たなビジネスを興したい。自らが培ってきた「紙」の知識を使ってチャレンジしたい。もっと「紙」のビジネスで冒険をしたい。そう考えたのだ。

「例えばインドネシアには、まだ古紙を回収するシステムがありません。ですから、古紙を再資源化するビジネスを立ち上げたいですね。また東南アジアは、どこも深刻なゴミ問題があります。当社は総合リサイクル事業の一環として廃プラスチックを再資源化するビジネスも行っていますから、これも現地でぜひ取り組んでみたいテーマです」

廃プラスチックといえば、欧米を中心にプラスチック製ストロー廃止の動きが広がっている。また、国内でもビニール製の買い物袋の有料化が実施された。プラスチック素材が海洋汚染の原因となり、生物にとって深刻な問題となる可能性が指摘されているからだ。

 

「紙」をめぐる冒険は、いよいよ世界へ!

そして2019年4月30日、いわゆる平成最後の日に、堀本はついに成田空港から新たな冒険に向かって飛び立つこととなる。待ちに待った海外駐在が決まったのだ。堀本の駐在先、それは……。

「向かったのは、この30年間、経済成長を続けているオーストラリアでした。シドニーにある日本紙パルプ商事の現地法人JPオーストラリアへの赴任となったのです」

現地での従業員は実質一人。堀本が責任者となり、営業から実質的な経営まですべてを執り行うことになった。

令和初日となる5月1日に現地入りした堀本に与えられたミッションは、大きく分けて三つある。一つは、2019年4月末に100パーセント子会社化した現地の紙の輸入商社 Ball&Doggett 社と日本紙パルプ商事グループ全体とのシナジーを創出すること、二つ目は Ball&Doggett 社と協力してビジネスの多様化を推進すること、そしてなによりも、堀本が実質的に取り仕切る現地法人JPオーストラリアを経営することである。

国内に製紙メーカーを持たないオーストラリアにおいて、紙はすべて輸入品であり、商業印刷向け印刷用紙の五割以上のシェアを持つナンバーワン商社が Ball&Doggett 社である。「世界最強の紙流通企業」を目指す日本紙パルプ商事は、2010年以降、米国、インド、オセアニア、東南アジア、英国の紙商を次々と買収。現地マーケットに密着したグローバルネットワークを構築してきた。その情報網を用いて、Ball&Doggett 社をさらに大きくするのが堀本の使命である。

「日本紙パルプ商事は、各国で成功している最新の紙ビジネスの事例や各サプライヤー情報を豊富に蓄積・共有しています。私の仕事は、それらのネットワークを利用しながら、Ball&Doggett 社を含めたグループ全体の利益に貢献することです。いま特に関心を持っているのは、環境問題のソリューションビジネスです」

日本の20倍の国土に日本の5分の1の人口しかいないオーストラリアでは、その広い大地のどこかにゴミを埋めればいいため、ゴミはこれまでなかなか環境問題としてクローズアップされてこなかったのだという。実際、日本がプラスチックなどのリサイクル率が8割なのに対して、オーストラリアはわずか4パーセント。それも広大な国土を抱えるという余裕があるためだが、そんなオーストラリアでも現在、EU並の環境規制を導入し、5年後には食品パッケージの50パーセント、その後は80パーセントまでリサイクル素材を使うことが決められている。

「現在、欧州などで注目を集めている水に溶けたり土壌に返ったりする素材『バイオディグレータブルフィルム』を Ball&Doggett 社に紹介し、一緒に拡販しようとしています。国としてのリサイクル率が低いということは、逆にビジネスとして考えると、今後の可能性は高いということになります」

また、Ball&Doggett 社のインクの調合のビジネスモデルの世界展開もシンガポールの日本紙パルプ商事グループ会社と連携して進めている。さらに、JPオーストラリア自体の収益も、ニューノーマル(新しい日常)の中、自宅で料理する人たちが急増してスーパーなどの食材販売が増加し、包装材などの売れ行きが伸びたことで好調に推移している。

「オーストラリア人はポジティブな人が多く、どんな状況であっても〝なんとかなるさ〟と明るく楽しく仕事をします。それは本当にすごいなと感心します。ただ、その反対に、結果が思わしくなくても〝まぁしょうがない〟と、目標達成に貪欲でない面も見受けられます。また、働くという行為も日本人なら少なからず会社のためという意識がありますが、オーストラリアでは自分のため家族のために働くという方が多数かと思います。

ですから、その文化の違いを踏まえつつも、日本紙パルプ商事グループ、Ball&Doggett 社、そしてJPオーストラリアがワンチームとなって、トリプルWINとなるビジネスを展開したいと思います」

今後は、日本紙パルプ商事グループのグローバルネットワークから得た知見をオーストラリアの紙ビジネスに活用するとともに、オーストラリアから見た日本の様々な問題についてのソリューションも新規ビジネスとして提案していきたいと語る堀本。世界中の「紙」をめぐる、堀本のチャレンジングな冒険はいま始まったばかりである。

 

堀本育哉(ほりもと・いくや)

1987年、神奈川県藤沢市出身。立教大学経済学部経済学科卒業。2009年入社。小学校から大学までサッカーに打ち込み、大学ではサークル日本一にも輝く。国際営業本部では、タイ、インドネシア、ミャンマー、モンゴル、ベトナムを担当。印刷用紙にとどまらずフィルム製品など幅広い商材を扱い、海外サプライヤー品の三国間貿易も行う。ベトナムでは大手ファストフード向けの耐水耐油紙も手がけた。2019年5月からJPオーストラリアに駐在し、現地ナンバーワンシェアの子会社のコントロールなどを手掛ける。

「〝途上国〟というテーマがあったので、就活では商社に絞りました。私が思うに、どこに進むにしろ、その業界のナンバーワンの企業に話を聞いてみるといいと思います。ナンバーワン企業は、それだけの歴史と強みがありますから、そこから業界全体のこともよく見えてくるはずです。もちろんベンチャー企業を目指す人もいるでしょうが、まずはその業界のナンバーワンの社員と会って、面接まで体験してほしい。これが僕からの就活生の皆さんへのメッセージです」

 

取材:2020年9月

 


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