商社の仕事人(78)その3

2021年02月18日

ダイワボウ情報システム 川畑佑介

 

ロジカルな思考と人脈形成術で

困難な案件もものにする

 

 

PC2000台、2億円の案件に挑む

高度な提案活動を続けたことで、C社の川畑に対する信頼度は増して行き、やがては上層部との定期ミーティングを実施することができるまでになった。これは商社パーソンとして非常に重要なことであり、進行中の案件のステータスを共有できる機会がなければ、相手が求める支援や提案を具体化させていくことは困難だ。

高度で有効な提案を繰り出すことで、現場担当者が上司を同席させるようになる。これに合わせ川畑も上司を同行する。こうして定期ミーティングが実現する関係が構築されていたある日、大きな案件が進行しているという情報をキャッチする。それは、とある金融関係D社でのシステム入れ替えで、受注ができれば2億円規模という、川畑にとって初めての大口案件だった。

新しいシステムの構築にあたり、PC2000台を総入れ替えする。これは川畑にとって何としても取りたい案件だった。とはいえ、別の販売店が、あるメーカーのPCを既に数台納入していた。常識的に考えれば、ほぼ確定している商流を覆し、違う販売店が別メーカーのPCを導入することなど、不可能に近かった。しかし、川畑はひと筋の勝機を見出していた。それは、D社が現在のサポート面に対して不安を持っていたことだった。価格や機能の条件が整っていることは大前提だが、金融関係という立場上、セキュリティ面も同様に重要であり、そのためのメンテナンスも含めたサポート体制の充実は意思決定の大きな要素となっていた。川畑はD社の不安要素をいち早く察知し、その点を十分カバーする提案書を作成してコンペに挑んだ。

「こちらが扱うメーカーにD社の不安をぶつけ、一つひとつ潰し、D社の心をくすぐる提案を続けました。関東にあったメーカー本社や調達部門にも頻繁に出張し、いつでも動ける体制を整えておきました」

提案のタイミングも緻密に計算した。決定期日から逆算し、D社の意思決定にかかる時間も考慮し、最適なタイミングで提案を続けた。もちろん、DISの技術部隊とタッグを組み、高度な共通言語で会話することで先方の不安要素を打ち消す努力も怠らなかった。徹底的な戦略と計画。川畑はこの勝負の勝利を確信していた……と思いきや、意外なことに五分五分の勝算であり胃の痛い日々を過ごしていたと教えてくれた。

「価格面で、すでに納品を始めていた先行の企業からの巻き返しも考えられました。もちろん、過去の事例から相手がどこまで価格を下げてくるかは徹底的に分析していましたが、それでも案件を受注したいという思いは当社もライバル会社も一緒。むしろ先行していたはずのライバル会社の方が追い詰められていたはずですから、最後までどう出てくるかは分かりませんでした」

そしていよいよ決定の当日を迎えた。川畑の元には、1年半共に戦略を練り戦ってきたC社の担当SEから電話がかかってくる手はずとなっていた。いつもより早く出社し、スマホを握りしめて待つ川畑の元に入電があったのは午前9時30分のこと。

「川畑さん、うちが取りましたよ!」

すべての努力が報われた瞬間だった。

 

新たな地で商社パーソンとしての自分を成長させたい

入社6年目で川畑は商社パーソンとしての自分を育ててくれた大阪の地を離れ、名古屋へ異動し、また新たな商習慣の中に身を置き、新しい人間関係を構築する日々が始まっている。システム開発にまつわる全ての業務を引き受けるシステムインテグレーター6社を担当しており、製造業や流通、サービス業、医療など様々なユーザーに対するシステム開発および販売後のサポートを行っている販売店が主なクライアントとなる。ハードの提案はもちろん、各業界の特徴やニーズを熟知する必要があり、現在は新たな知識の蓄えと戦略の構築に励んでいる。そして、担当する6社はすべての機器をDISから買っているわけではなく、他のメーカーや商社も入っている。川畑は大阪での経験を生かし、それらをすべて奪取する構えだ。

「ロジカルな思考をもっと磨いて、商社パーソンとして大きな数字を追っていきたいですね。また、これまでは自分のことで精いっぱいでしたが、自分の知識や経験を後輩に伝えてマネジメントできるようになっていきたいと考えるようにもなりました。私を育ててくれたビジネスパーソンの先輩たちのように、もっと確固たる自信を持って新たなビジネスに挑んでいきたいと思います」

かけがいのない上司や同僚、そして取引先の恩人との出会いを思いながら、川畑は新天地でのビジネスに、さらなる夢を賭ける。

 

川畑佑介(かわはた・ゆうすけ)

1990年千葉県出身。経済学部卒。2014年入社。現在プライベートでは二児(双子)の子育てに奮闘中という優しいパパだ。

「就活を始めるまで、正直DISのことは知りませんでした(笑)。しかし、IT化が当たり前となっている現代で世の中をより便利にするための物資を供給することにひと役買える。そんな仕事に大きな魅力と可能性を感じました。自分がシステムを入れた案件はすべて覚えていて、街を歩いているときも〝あっ、ここが便利になっているのは私がシステムを入れたからだ〟と嬉しくなったりもします。入社してみて感じたことは、商社の仕事は人と出会う機会が圧倒的に多いということ。仕入先メーカーやクライアントなど、様々な立場の様々な年代のビジネスパーソンと出会うことができます。私にとっては、これは一番の仕事の醍醐味と言っても過言ではありません。刺激を受けることも多く、学びの機会にもなる。そんな体験をしたい人は、ぜひ商社の門をたたいて欲しいですね」

 

取材:2020年9月

 


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