商社の仕事人(85)その3

2021年03月11日

CBC 宍戸慶行

 

安定を良しとせず、

強い開拓精神でゼロから

新しいフィールドに挑戦する

 

〝中国でしか仕事ができない男〟にはなりたくない

本社採用ではなく現地採用という経歴の宍戸は、常々他の社員の3倍働き、誰よりも早く、多く利益を出そうと考えていた。それは本社採用を目標としていたためではなく、経験と実績を積み重ねて新たなフィールドで新たなビジネスに挑戦するためだった。こうして北京で7年の月日が流れた頃、宍戸は中国の3つの現地法人の中でトップの売り上げを叩きだすまでになっていた。しかし、一方ではこんな感情も芽生え始めていた。

「近頃、以前のような前のめり感が薄れてきたな……」

開拓した中国市場は確実に利益を生み出していた。その数字をさらに大きくする道もあったが、すでに回り始めていたビジネスに、マンネリを感じずにはいられなかったことも事実だった。どこまでも開拓精神に溢れた宍戸にとって、安定した環境ほど居心地の悪い場所はなかった。贅沢な考えだが、それが宍戸という商社パーソンなのだ。

そんな心情を見抜かれたのかは定かでないが、ある日上司から本社採用を打診され、さらにはCBCの圡井正太郎代表取締役副社長とも面会する機会を得た。

「やるからには社長になりたい。トップを目指したいんです」

そう話す宍戸に、圡井代表はこう言ったという。

「好きにやっていい。やりたいことをやればいい」

新しいアイデアを提案し、筋が通ってさえすれば何でも挑戦させてくれる懐の深さがCBCにはある。そのことに改めて気づかされた出来事だった。利益は重要だが、例え採算が合わなくとも未来につながるアイデアであれば背中を押してくれる社風は、自ら動きたい宍戸にとっても魅力を感じざるを得なかった。マンネリを感じていたのは、自分が求めることをしなかったからだ。やろうと思えば、ここでできることはまだまだある。そう感じた宍戸は、本社社員になる道を選択する。そして程なくして、メキシコ市場の新たな開拓に志願することとなった。

新たなフィールドでの挑戦に備え、中国から1か月間だけ日本に戻り、メキシコとつながりのあるメーカーに片っ端からアポイントを取った。現地担当者を紹介してくれと頼みこむためだ。またメキシコ関連ビジネスの会合にもすべて足を運んで顔を売り、現地で何から着手するかシミュレーションを行い万全な準備を整えた。まだメキシコシティには同社のブランチオフィスしかなかったため、企業紹介のパンフレットなども当然なかった。そこで宍戸が一から手作りし、配布の準備も万端。緻密な戦略の立案はお手の物だった。

怒涛の1か月を日本で過ごし、いざメキシコに乗り込んだ宍戸だったが、しかし思わぬ苦戦を強いられた。メキシコのブランチオフィスは、駐在員事務所があった北京以上に何もない環境だった。さらにメキシコ人の国民性を掴むことにも苦労した。ストレスが影響したのか、赴任からわずか1か月の間に帯状疱疹ができて通院を余儀なくされたというから、宍戸の心身への負担は計り知れない大きさだったのだろう。

ところが、この体調不良をきっかけに〝好調〟のスイッチが入ったというから、宍戸の開拓精神は筋金入りと言っていい。

「〝自分はこんなことで不調になるのか〟と、ショックを感じると同時に新たな発見が面白く感じてしまって(笑)。それからは、考える前に動くしかないと頭を切り替えて、攻めの姿勢で市場の開拓を進めることができました」

中国で成功した分、プレッシャーがあったのかもしれない。もしもメキシコで実績を残せなければ、〝中国でしか仕事ができない男〟になってしまう。そうなれば、次の新しいフィールドへの挑戦権は与えられない。開拓し続けたい宍戸にとって、それはビジネスパーソンとしての終わりを意味する。そんな思いが体を強張らせていたのだ。

しかし、不調が好機となり復活を遂げた宍戸は、鉱物会社とのサプライチェーンを一から構築して3億円のビジネスを生み出すなど、見事メキシコ市場の開拓に成功。次の新たなフィールドでの挑戦権を獲得することとなる。そのフィールドは、意外にも日本だった。

 

〝初めて〟となる日本のビジネスに挑戦

2020年4月、商社パーソンとして〝初めて〟日本のビジネスを経験することとなった宍戸。初めては他にもあり、すでに誰かが開拓した〝出来上がっている〟ビジネスを引き継ぐのは、入社14年目にして初体験だった。現在は食品業界を中心に樹脂、包装資材、食品を取り扱うグループのプレイングマネージャーとして活躍している。

配属当初はしっかりと整ったビジネス環境に困惑もしたが、すぐに宍戸は自分の役割を理解した。環境は違えども、やることはひとつ。「新しいビジネスをつくること」である。とくに日本の食品業界は、付き合いの長い取引先を大切にする傾向が強い。つまり、新規参入がしにくいということだ。

「そこに風穴をあけて当社食品部門の新たな核となるビジネスをつくることが、私に課せられたミッションです」

中国とメキシコでの経験が、必ず日本でも役に立つだろう。そして宍戸にとって新鮮な日本の市場を開拓できた暁には、また別の国に挑むのだ。どこまでも開拓精神に溢れた男は、次のフィールドを目指して今日も挑戦を続けている。

 

宍戸慶行(ししど・よしゆき)

1982年千葉県出身。立命館大学経営学部卒。2007年北京現地採用。2012年本社採用。

「海外の良さは、自分自身が戦略を決めてビジネスを進めていけること。自分から何かをやりたい人には非常にやりがいのあるフィールドです。どういうマーケットにどんなサービスを生み出そうか、何かと何かを組み合わせてこんなものが生み出せないか。そんなことを考えるのが好きな人ならば、CBCは夢を叶える場所になるはずです。とはいえ、今担当している日本も非常にやりがいのある場所です。これまではジェネラリストでしたが、日本ではスペシャリストになることが求められる。母国である日本のビジネスを知っておくことで、また海外に出たときに、これまでとは違った視点で開拓ができるのではないかと、今からワクワクしています」

 

取材:2020年9月

 


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