商社の仕事人(49)その4

2018年03月15日

豊島 池田剛士

 

繊維コンサルタントとしての

実績を積み上げる

 

 

「赤く燃えるより、青く燃えろ」

それまで行ってきた、製品を卸すという業務とはまったく別の製品提案を行う。分からないことだらけだったが、池田は先方が望む形を最大限に実現することを心掛けたという。

「例えば、納期をもう少しだけ早くと言われれば何とかしましたし、価格が上がってもいいからクオリティを高めたいと言われれば、実現させました。常にコミュニケーションを取りながら、相手の要望を汲んでいきました」

〝池田とならいい仕事ができる〟という信頼は少しずつ高まっていったのだろう。対応がよいだけでなく、確実な実績も上げていたからだ。

小売店のお客様が求めているのは、ロスをなくし、在庫を減らすこと。これが最大の目標と言っても過言ではない。そしてこれを改善するにはクイックデリバリーがベストであると考えた。そこで池田は、すぐに製品にすることができる韓国の在庫生地と池田の商品のみを縫製する中国工場を結び、小ロット生産と短納期での追加注文対応を実現させた。これは、容易いことではない。工場への負担は大きくなるため、反発が起きても不思議では無い。

「そこで私は、中国工場にとってのメインバイヤーとしての数字を上げました。クイックデリバリーは、工場に負担を掛けることになります。ならば、まずは工場にとって、私が欠くことのできない〝価値〟になればよい。毎週何かしらのオーダーをもらってきて、メインバイヤーとしての利益をもたらしました。〝池田の仕事なら、厳しくても受けて損はない〟。そういう数字を上げたうえでの、クイックデリバリーの実現でした」

誠意や人柄でまわっていく仕事もある。しかし池田は、数字という実績も絶対に欠かせないと考えている。

「ビジネスですからね。毎日足を運んだり顔を見せるのは、〝まず行う〟こと。次は利益を生み出して、これを足がかりに新たな挑戦をしたいんです。情熱だけで動くほど、ビジネスは甘くないと思っています」

もう1つ、池田にとって印象深いビジネスがある。U社との取り引きが順調に進み出した頃、繊維とは関係の無いピアスやネックレスといった小物類のブランドの立ち上げも手伝って欲しいと依頼されたのだ。億単位のファッションアイテムと比べると、利益はゼロに等しい。メインのお客様であるU社の依頼だ。U社の仕事なら受けて損はない。池田は韓国に同行して、30万円ほどの小物を買い付けて帰国した。

ところが、これが翌年には100万円になり、気づけば現時点で1億6,000万円のビジネスになっているという。

「U社の手間を省き、私がハンドリングして効率よく数字を上げる。最初はお付き合いでスタートした仕事が成長したことに自分でも驚いています。私は今後、物作りのシステムや、関わる人間すべてをスムーズに動かせるようなビジネスの進め方を構築したいと考えています。走り回って泥臭く数字を叩き出すのも、嫌いではありません。しかし、若手ではなくなった私がいつまでもドタバタと仕事をしていては、後から入ってくる後輩たちにガッカリされるような気がするんです。いろいろな部署との情報を共有していくためには、操る人間がいるべき。繊維のコンサルタント的な立場を確立したいと思っています」

豊島は、〝熱い商社〟と言われる。しかし池田は、もっとクレバーにビジネスを展開してきたいという。とはいえ、冷めているのではない。「赤く燃えるより青く燃えろ」。池田のスタンスを表す言葉だ。冷静に、確実な成果を残す繊維コンサルタントは今日も新たなビジネスの種を探し続けている。

 

学生へのメッセージ

「豊島には〝マンパワー〟という言葉がよく似合いますが、私自身はオーダーがもらえる〝理由付け〟が欲しいと思っています。池田はいい人だから仕事をしたい。これでは、何の実力があるのかさっぱり分かりません(笑)。他の商社マンにはできないスピード、対応力、品質など、確固たる理由を持ちたいんです。学生の皆さんには、ぜひ〝最終ジャッジは自分でせよ〟という言葉を贈りたいですね。人生には必ず、辛いことが起きるものです。そんなとき、誰かの意見に左右されていると、愚痴や言い訳を口にしたくなります。自分で選んだ道ならば、腹をくくって対応ができ、成長の糧にもできるはず。自分の人生に後悔しないためにも、何事も自分で決める訓練をして欲しいですね」

 

池田剛士(いけだ・たけお)

1980年埼玉県出身。法政大学経営学部卒。2003年入社。人生経験とは、人との繋がりであることを学生時代から感じており、アルバイト先には雀荘を選択。普通の学生では会うことのできない、〝非現実的〟な客たちとの交流を楽しんだという。

 

『商社』2014年度版より転載。記事内容は2012年取材当時のもの。
写真:葛西龍

 


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