商社の仕事人(54)その2

2018年05月8日

稲畑産業 石光賢信

 

ビジネスは

ゼロから∞が醍醐味

 

 

ゼロからのスタートを任された高機能フィルム事業

2005年2月第3週の日曜日、石光はアメリカへ飛んだ。高機能フィルムのメーカー、米A社の工場で一週間の研修を受けるためだ。

稲畑産業は当時、同社製品の日本での販売について契約合意を交わしたばかり。そこで若手の石光が選ばれ、従来の担当に加えてこの新規案件を任されたわけだ。現地に一人で派遣された石光は、A社製品の特性、工程、マーケティングなどをみっちり会得して帰路についた。

「研修を通じてすっかりその商材に惚れ込んだので、売る気満々になって帰ってきましたよ(笑)」

2003年入社の石光がそれまで担当していたのは、主にインクジェットプリンタ用インク原料。インク原料は、稲畑産業が世界で非常に高いシェアを持つ主力商材のひとつだ。その彼が新しく任された高機能フィルムは、やはり同社が主力のひとつとする液晶ディスプレイの製造工程で用いられる商材だった。

そもそも液晶ディスプレイは、さまざまな機能を持ったフィルムが何層にも重ね合わされて作られる。その工程には、テレビやパソコンモニタなどの完成品メーカー、液晶ディスプレイメーカー、また個々のフィルムに特化したメーカーまで、さまざまなプレイヤーが関わっている。

「私が担当することになったA社の商材は高機能フィルムの一種で、保護フィルム、マスキングフィルムなどと呼ばれます。これは液晶ディスプレイを構成する無数のフィルムを製造加工する各段階で、予期しない化学的・物理的変化などからそのフィルムを保護するのが役割。したがって役目を終えたら捨てられ、最終的な製品には残らない材料なんです」

実はこの部分にこそ、商機のひとつがあった。例えば商材がテレビの偏光フィルムを構成するフィルムのひとつであれば、偏光フィルムを作るメーカーにしか売れない。しかし保護フィルムは、液晶に関わるさまざまなプレイヤーが相手先になる。綿密なマーケティングを通じ需要先を洗い出し、優先順位を付けながらも片っ端から訪問して回る必要があったという。そこで強みになったのは、A社の独自技術だ。

「国内にも当然、同じ製品を作るメーカーは大手をはじめたくさんあります。売り込むにあたってはそれらとの競合になりますが、A社は高機能フィルムの生産に関する画期的なパテントをいくつも持っていました。その技術力を武器に、国内の各メーカーとの交渉を始めたわけです」

⇒〈その3〉へ続く

 


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