商社の仕事人(54)その4

2018年05月10日

稲畑産業 石光賢信

 

ビジネスは

ゼロから∞が醍醐味

 

 

社会貢献も視野に入れてアクセルを吹かしていく

大学時代は、立教大学理学部で物理学を専攻。だが就職活動では、商社一本に絞った。

「物理を選んだのは、歴史みたいに細かいことを覚えるのが嫌だったからですよ(笑)。物理は理屈や考え方が分かれば、何かを丸暗記しなくていいので。それで高校の時に物理の成績がよかったことから、受験で有利な学部を選んだだけです。性格が文系か理系かといえば、私は文系かもしれません」

大学の研究室に残る道もあったが、その選択は考えられなかったという。

「同じ研究室にこもって同じ人たちと同じテーマをコツコツ追究するというのは、突き詰めれば非常に奥深い世界ですが、私は性に合いませんでした。私は多様性という言葉が好きなんです。いろんな土地、文化、人を知って、いろんなことをやりたい。商社を選んだのは、そうした思いからでした」

稲畑産業の就職活動では、志望する部門の担当者から次のような言葉も聞かされた。

「現場はしんどいぞ。寝られないこともあるぞ」

だが就職したらとことん仕事に打ち込んでみたいと燃えていた石光にとっては、望むところだった。

「もちろんストレスや心配ごとは少なくありません。整髪料のせいで分からないかもしれませんが、白髪がだいぶ増えましたよ(笑)。でも一定のストレスを抱えながらも、とにかく走り続けていくのが好きなんだろうと思います」

そんな石光が形にした保護フィルム事業は今、先輩に引き継がれている。次に彼がチャレンジするのは、冒頭で述べたリチウムイオン電池事業だ。

「保護フィルム事業はこれからも伸びていきますが、その土台を作ったという意味で私個人はやり終えた感があります。ルーティンワークをきっちりこなしていくのは当然ですが、その一方で私はやはり新規を立ち上げて育てていく仕事に大きな喜びを感じるんです。今の担当を任されたのも、ゼロからスタートした保護フィルム事業を育てた実績が評価されたのでしょう」

石光にはさらに大きな「目論見」もある。

「まずひとつ、製造業に絞っていえば日本が世界的にリードしていける業界というのがなくなってきています。液晶ディスプレイにしても、すでに国際的な競争力を失っています。そんななかでリチウムイオン電池は、まだ日本が世界と互角に戦える業界なんです。その意味で、このビジネスは日本の産業をしっかり守っていくという意義もある。またCO2などによる環境負荷を減らすのはもちろん、社会全体を巻き込んだスマートシティ構想まで視野に入れれば、幅広い方面で世の中に貢献できる。近江商人の『三方よし』、つまり『売り手よし、買い手よし、世間よし』という言葉があるでしょう。このビジネスを通じて社会貢献できるという部分にも、大きなやりがいを感じています」

だがビジネスの規模が大きいぶん、乗り越えるべき壁も大きい。リチウムイオン電池はいうまでもなく、世界中が注目する新しいマーケットだ。それだけに競合も激しいが、石光はひるまない。

「すでに手応えはありますよ。でなければ、今こんなに燃えていません。ほかの商社やメーカーにはない当社だけのファンクションをうまく活用していけば、非常に面白い展開になると思います。今はまだ引き継ぎ中ですが、いずれリチウムイオン電池に100%シフトしてアクセルを吹かしていくつもりです」

世界を相手に、石光がまた動きだした。

 

学生へのメッセージ

「就活は大変かもしれません。でも私からのメッセージは、『絶対くさらず、あきらめない、世の中は上手く出来ている』ということ。不本意なことがあってもくさらないで努力を続ければ、必ず何らかの形で見返りがある、バランスする、というのが私の信条です。例えば志望する会社に入れなくても、縁のあった会社で努力し続ければ、結果的にそこへ入ってよかったと心から言える日が来るでしょう。とにかく『あきらめない、くさらない』、それに尽きると思います」

 

石光賢信(いしみつ・けんしん)

1978年神奈川県生まれ。立教大学理学部物理学科卒業。2003年4月、稲畑産業入社。入社は、いろんな人に会わせてもらい、現場や実際の雰囲気を感じることができたのがきっかけだった。

 

『商社』2013年度版より転載。記事内容は2011年取材当時のもの。
写真:葛西龍

 


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