商社の仕事人(62)その1

2018年08月20日

豊島 松鐘幸生

 

がむしゃらの先にしか

見えないステージへ

 

 

【略歴】
松鐘幸生(まつかね・ゆきお)
1979年福岡県出身。横浜国立大学経営学部卒。2002年入社。

 

何気ない名刺交換が大きな取り引きに

入社して3年目の7月、松鐘が新しく配属された東京3部4課は、豊島の中でもっとも利益を生み出している〝花形〟と言える部署だった。取り扱うのはレディースのニットやカットソー。大手セレクトショップ「B社」などを相手にOEMを手がけ、街を彩る様々なファッションアイテムを世に送り出す黒子的な役割を担うのだ。

「そういう部署への異動を命じられたことを誇りに思いました。自分も大きな利益を作り出せる仕事をするぞと、気持ちが引き締まったことを覚えています。ただ、その時点で私にはレディースに関する知識はほとんどなく、仕事の進め方も分からない状況でした。同期入社で初めからレディースにいた仲間とは比較にもならない、新入社員同然の状態だったんです」

実は松鐘は、入社してから2年間、ベビー&キッズを取り扱う東京1部2課に所属していた。豊島の社風や人の魅力に惹かれて入社試験を受けたが、学生時代からアパレルに興味があったというわけではない。そのため、繊維やファッションの世界に関する知識も情報も、ほとんどなかったそうだ。

「しかも、大学を卒業したばかりの男にとって、ベビーやキッズの洋服は、もっとも遠い存在です。メンズや、せめてレディースなら少しは身近に感じられたけれど、子供服の世界など正直言って興味すら持てない(笑)。非常に戸惑いましたね」

いったい、どんなモチベーションで仕事に向き合えばいいのか。始めのうちは、先輩社員の指導も耳に入らない状態だったと振り返る。

「でも、落ち着いて自分の状況を見つめてみると、社会人1年目であるにも関わらず、非常に恵まれていることに気づきました。当時、東京1部2課の部長を務めていたのが長年海外に赴任されていた方で、物事の考え方がとても大らかで自由でした。新入社員の私が〝こういう物を見てきたいので出張に行かせて欲しい〟などと意見を言えば、どんどん行ってこいと背中を押してくれて。まだ早いとか、どういう勝算があるのかなどと先回りせず、とにかく何でもやってみろというスタンスの持ち主だったんです」

自分から動かなければ、何も生まれずつまらないまま。しかし、考え、行動を起こせば何らかの仕事につながる。そして、つなげさせてくれる土壌も豊島にはある。

「ある時、日本全国及び海外多数の縫製工場などが何百も集まる展示会に出かけたことがありました。そこでは私は、とにかく片っ端から各社の担当者と名刺交換をしたんです。それで、なぜか興味を惹かれる工場が1社あったので、部長に名刺を見せて説明した。すると、実際に工場がある中国に出かけて、その目で見てこいと言われたんです。まだ右も左も分からない新入社員だったので、サポートしてくれる先輩社員も同行させてくれました。最終的に、その工場と豊島は取り引きを行うことになり、数年のうちに東京1部2課にとって主要の仕入れ先となっていったんです」

自分の名刺交換から始まった大きなビジネス。今考えれば、豊島の社員としてはよくあることなのだそうだ。しかし、当時の松鐘にとっては驚きと感動があった。さらに、部長からもお褒めの言葉をもらったという。

「〝まだ商品知識もないし営業のノウハウも蓄積されていないけれど、お前の行動が利益を生み出した。そういう働きをしてくれて嬉しい〟と言ってもらえた。私はこの部署での2年間で、仕事へ取り組む姿勢や気持ちの持っていき方など、社会人としての、そして商社マンとしてのベースを作ってもらったと思います」

⇒〈その2〉へ続く

 


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