商社の仕事人(70)その4

2018年12月13日

日本紙パルプ商事 秋吉省吾

 

熾烈な古紙原料獲得競争に

勝ち抜き

新たな再生紙ビジネスに挑む

 

ベトナムにおける再生紙ビジネスの可能性を信じて

実は、ベトナムではまだ古くからの商習慣や人間関係によって購買が左右される文化が根強く残っており、製品の良し悪しだけではどうにもならない状況があった。製品の存在を知ってもらう機会さえ限られていた。秋吉は、日系企業などに自社製品を実際に見てもらうという地道な作業から始めた。

「どうですか、この商品はこんなに綺麗で質が良く、柔らかいでしょう。使ってみてくださいよ」

最初は胡散臭そうに見られたが、現物を見せて触ってもらうと現地の人たちは一様に驚いた。

「現地にはインドネシアや韓国製の商品もあったのですが、これらは地元でよくある商品と同じように作られていて、質の悪いものがほとんどでした。例えば、ベトナムのトイレットペーパーはシングルがなくダブルのみなのですが、日本ならこれで30m品が主流なところ、ベトナムは12m品などスカスカの巻きが主流なんです。そんなところでも当社製品の競争力は大きいのに、うちの商品が買われないなんておかしいですよね」

品質が良くて同価格でも売れない、秋吉は海外でのビジネスの難しさを実感した。しかしだからこそ、その大きな可能性を描くことができた、と言える。

ベトナム出張は当初から2か月間と期限が決まっていたため、秋吉は時間をフルに使い、ベトナムに進出している日本企業などを周った。コアレックスグループの製品を徹底的に広め、販路の拡大に注力してきた。しかし志半ば、大きな宿題を課せられたまま、帰国の日を迎えた。

「今は再び古紙の回収に飛び回る日々ですが、ベトナムでやり残してきたこともあり、現地でアポが取れなかった日本企業とのやりとりなども、同時進行で関わっています」

誠実に仕事に対峙してきたベトナムでの苦労は無駄ではなかった。

「実は、ベトナムの工場の社長に〝秋吉は日本に帰る必要ないんじゃないか?〟と言われたんです。冗談だと思ったのですが、その社長は冗談を言うタイプではないと日本に帰ってから聞かされ、少しでも貢献できたのかと嬉しくなりましたね。現在日本で行っている古紙の回収も、ベトナムでやってみたいと考えるようになっています。ただし、まだ現地では環境保全の文化があまりなく、機密文書などもどんどんゴミとして出されている。文化として根付かせるところから始める必要があるかと思うと気が遠くなりますが、可能性のひとつとして考え続けていきたいと思っています」

チャレンジを続ける秋吉は、直近の目標として、コアレックスグループの富士工場から新しい商品を世に送り出すことを掲げている。およそ120億円の投資によって導入された設備では、トイレットペーパーの複雑なエンボス加工や香り付けなど、様々な対応が可能になっている。

「一般的な商品に加えて、高付加価値商品もできるため、その販路も開拓したいですね。最近では、営業の視点も取り入れたいということで、商品開発にも携わることがあるんです。立ち上げから関わった工場から、自分が関わった新しい再生紙商品を生み出し、全国に展開する。これを今の目標としています。ベトナムでも、生活水準が上がれば売れる商品はもっと増える。再生紙のビジネスも、展開が広がるはずです。紙の業界は、視野を広く持つことで、様々な可能性があると思いますよ」

国内では苦境に立つ紙ビジネスの新たな展開、可能性はこういう人物から生まれてくるのかもしれない。

 

学生へのメッセージ

「海外旅行の経験がなく、また海外で仕事がしてみたいという思いもなかったので、商社マンとして異質でしょうか(笑)。しかし、初めてベトナムに行っても、とまどいはほとんどなく、自分はどこででもやっていけるタイプなのだと気づかされましたね。仕事でもプライベートでも、大切なことは人間対人間の付き合いですから、日本でも海外でもさほど変わりはないのかも知れません。就職活動に際して、もちろん海外での経験によって視野を広げたりすることも良いかもしれませんが、取り繕って形だけ整えても、人間の本質は変わりません。〝理想の就活生〟になるのではなく、自分とはどんな人間かをありのままに見せる方が良いのではないでしょうか。そこから、あなたの人と成りを見極めてくれる会社を選ぶことをお勧めしますね」

 

秋吉省吾(あきよし・しょうご)

1983年、福岡県生まれ。明治大学経営学部経営学科卒。2007年入社。学生時代も社会人となってからも、一度も海外に行ったことがなかったという秋吉。ベトナムへの出張が初海外だった。

 

『商社』2018年度版より転載。記事内容は2016年取材当時のもの。
写真:葛西龍

 


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