商社の仕事人(72)その4

2019年04月18日

伊藤忠商事 金田直也

 

世界地図は、

すべてこの手で塗り替える!

 

 

〝名もなき企業〟から世界ブランドへ

「ちょっといい気になっていたのかもしれませんね(笑)」

2010年当時を振り返り、金田は苦笑する。

その年の国際ココア機関の世界総会に自信満々で出席した金田は、「〝伊藤忠〟という名前がまるで空気のようだ」と感じたのである。参加各国の企業と名刺交換しても、相手からは悉く「何をしている会社ですか?」と尋ねられる。それは「名もなき企業」も同然。まるでカカオ豆の世界地図に日本も伊藤忠も存在していないかのようだった。さらに、チョコレートとココアの世界的な消費量の今後の予測値が発表される会議の席上、司会者が「日本は今この位置にいますが、2020年、2030年にはこのグラフから消えるわけです」と説明した途端、数百人の聴衆からややニヒリスティックな笑いが漏れたのだ。

「これにはカチンときました」

金田はその時、会場内に充満した空気を今も忘れることができない。

たしかにチョコレートの消費量は日本人一人当たり年間2キロ弱。一方、フルコースの最後にチョコレートを供するヨーロッパでは、チョコレートはお菓子ではなく嗜好品の一つ。いわば文化となっていることもあり、どの国でも日本の2、3倍もの量を消費する。とりわけドイツでは年間約12キロと桁違いに多い。しかも日本は今後ますます少子化が進み、人口も減少に転じる。消費量が増加するとは考えにくい。現在、チョコレートの年間生産量で日本は世界10位前後、消費量では世界20位前後に位置する。しかしアジアでのチョコレート生産量、消費量は群を抜いており、世界的に見ても非常に大きなプレミアムマーケットなのである。にもかかわらず、あまりにも低い扱いに、金田の〝怒り〟のモチベーションが、再び猛烈な勢いで高まった。

「たとえ日本の消費量を上げることはできなくても、世界のチョコレートの主原料であるカカオ豆とカカオ製品取引には、伊藤忠がとことん入っていってやる。そして、どんなに長くても10年以内に〝Itochu〟の6文字を世界ブランドにしてみせる」

こうして2012年4月、金田は全世界でのカカオ豆の取扱量ナンバーワンを目標に伊藤忠商事に出向。翌年には正式に伊藤忠商事の社員となり、現在、砂糖・コーヒー・乳製品部の砂糖・製菓原料課で先物取引から三国間貿易、さらにカカオ豆やチョコレート、ココアに関連する企業のM&Aにも精力的に取り組んでいる。

「今、伊藤忠商事のカカオ事業はグローバルプレイヤーに脱皮できるかどうかの最終段階に入ってきています。この場合の競合相手は巨大な世界企業ですから、日系総合商社同士の局地的な争いとはまったくフェーズが違います。伊藤忠商事が持っている数々の資産を最大活用することで、個人的には世界上位三強に入るイメージは持っています。1位になるには今暫く時間がかかるかもしれません。それにはいくつかのスイッチを押す必要があるのですが、こうした巨大且つ長期的なプロジェクトの中で、自分の思い通りにタクトを振って、思いのままに動かすのは本当に楽しいですね。これは映画で言えば、まさにプロデューサーの仕事だと思います」

3年で辞めるつもりだった金田の伊藤忠パーソン生活は、もう10年を超えた。映像学を学び、プロデューサーを目指した金田直也の手によって、カカオ豆の世界地図が全て塗り替えられるのも遠い未来の話ではないだろう。

 

学生へのメッセージ

あらゆる媒体に介在し、新たなシーズを見つけて、それを成長させる。そんなビジネスのトリガーとなるのが商社。だから商社の仕事はめちゃめちゃ面白い。たとえ明日、泥を売れと言われても、僕は全然構わない。泥をどうやって売ったら世界一になれるかを考える。つまり自分が今置かれているカテゴリーで世界一を目指せば良いんです。伊藤忠商事は、僕のような人間を確りと受け入れる器の大きい企業。いろいろな方に指導していただいたので、その恩は、伊藤忠を世界の誰もが知るブランドに育てることでお返ししたいと思います。一方で人生には一発勝負の世界もあります。就職活動の面接もその一つ。後悔しないよう駆け引きなく、物怖じせず本音でぶつかってほしい。セミナーなどで学生に会いますが、躊躇しながら話を聞かれるのは面白くない。僕は面接で本音しか言いませんでしたが、それでも採用されました。では、最後に一つだけアドバイス。面接でも絶対に笑っていたほうがいい。今笑っている奴が、これからもいちばん笑っている奴。ポジティブサイクルに持っていくにはとにかくいつでも笑うこと」

 

金田直也(かねた・なおや)

1979年、岩手県胆沢郡生まれ。カリフォルニア大学バークレー校卒。2005年、伊藤忠食糧に入社。2013年、伊藤忠商事に入社。現在の肩書は、ココアトレーダー&ココアプロジェクトリーダー。

 

『商社』2018年度版より転載。記事内容は2015年取材当時のもの。
写真:小倉直子

 


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