商社の仕事人(73)その4

2019年05月16日

岡谷鋼機 渡邉順平

 

社内外の人を巻き込み、

自分だからこそ生み出せる

付加価値を追い求める

 

尊敬する先輩のうしろ姿を追いかけて

入社して9年。渡邉は自動車を構成するトランスミッションやエンジンの部品となる特殊鋼鋼材を販売し、特殊鋼メーカー・加工メーカー・エンドユーザーの三者に対して最適な調達ソースを提案する営業を行ってきた。既存の取引先の商品や技術を紹介するだけでなく、新しいメーカーの発掘や紹介等にも力を注ぐことで信頼を得るとともに、既存商品の付加価値向上を積極的に行い、知恵を磨いて自分らしさも追求してきた。そのモチベーションの源となったのは、部署内に尊敬すべき先輩が多かったこと。その諸先輩を追い越すために、常に高い意識で仕事をしてきたと振り返る。

中でも渡邉に影響を与えたのが、商社パーソンとしてのいろはを教えてくれたS先輩。「ものづくりをしていない自分たち商社パーソンは、ものづくりをしている人以上にものを知らないとビジネスを成り立たせていくことはできない」という言葉は、仕事をしていく上での渡邉の土台となっているという。

「現地・現物・現認は絶対に怠らないと決めています。仕入れ先やメーカーの営業さんよりもものを知り、対等以上に話せるようにならないとマージンはもらえないという気持ちで仕事をしています」

そのため、ペーパーマージンで儲けるような仕事よりも、過程の1つひとつを自分の頭の中で把握し最良の選択ができるような、地道なビジネスの進め方に面白みを感じると渡邉は言う。だから、商社パーソンには珍しく、海外志向もないそうだ。

「行きたくないのではなく、〝どちらでもいい〟というのが正しい表現ですね。会社のトレーニー制度を活用して1年間アメリカに駐在し、これまでの仕事でも数えきれないほど海外出張もしてきました。しかし、テイストや商習慣や規模が違うだけで、商社の仕事、私の成すべきことは日本でも海外でも同じです」

中国に赴任したS先輩の仕事を引き継ぎ、日本での窓口として忙しい日々を送っていた渡邉だが、2018年9月、突然の辞令が下る。入社以来籍を置いてきた特殊鋼部から、自動車の生産設備関係の営業を行う名古屋本店メカトロ本部へ異動となったのだ。これは、新たなスキルと経験を通じ「将来に向けた幅広い視野と高い視座を身に着ける」ことを目的として、若手の精鋭を部門間でトレードする人材育成の一環である。組織として、渡邉の活躍のフィールドを広げたいと考えるのは当然のことだろう。

とはいえ、新しい部署では新入社員状態。これまで培ってきた当たり前の習慣が通用しない環境に、悪戦苦闘しているという。しかし、そんな渡邉を支えているのは、T先輩の存在だ。渡邉が入社3年目に、大阪から転勤してきたT先輩は、名古屋にまで名を轟かせていたトップ営業マンだった。ところが、8歳年上にも関わらず、自身の実力をひけらかすような素振りは微塵も見せず、むしろ机を並べていた後輩の渡邉に、積極的に教えを乞うたという。

〝大阪ではトップ営業かもしれないけれど、名古屋での実績は自分の方が上だ〟

そう身構えていた渡邉は拍子抜けし、T先輩に様々なことを教えていた。そして気づけば、T先輩は名古屋でもその実力をいかんなく発揮し、あっという間に業績を上げて行った。「この人には勝てない」。そう思った瞬間から渡邉は、T先輩のビジネスの発想力や顧客との関係作りなどを吸収することができるようになったという。

現在、未知の部署で悪戦苦闘はしているものの、あの頃のT先輩を見習い、先輩後輩問わずに教えを乞う姿勢で新しいビジネスと向き合っている。新たな価値を創造する日も遠くはないだろう。そしてその姿は、渡邉にとってのS先輩やT先輩のように、後に続く後輩たちに大きな影響を与えるに違いない。

 

【学生へのメッセージ】

「商社パーソンに必要な資質はと問われれば、私は『商売への嗅覚』『我慢強さ』『バイタリティ』と答えます。ものを見た時や人の話を聞いた時に、〝これは利益を生む〟〝これは損をする〟などと発想できることが大切で、誰でも思いつくようなことをそのままやるだけなら、商社である必要性がありません。また、ものづくりをしていない我々は、ものづくりを担っている人のプライドに勝つことはできない。そのため、厳しい言葉をいただくこともあります。しかし、そこで我慢して人やものを結びつけ、新たな価値を創造する。そんなバイタリティを持つことが、商社パーソンには不可欠であると、日々感じています」

 

渡邉順平(わたなべ・じゅんぺい)

1986年岐阜県生まれ。名古屋大学経済学部卒。2009年入社。〝自分を欲しがってくれる会社が自分に合う会社だ〟という考えのもと、業種・業界を問わず100社以上にエントリーシートを送り、1日5件の面接をこなす日もあるなどハードな就活生活を送ったという。

⇒岡谷鋼機

 

『商社』2020年度版より転載。記事内容は2018年取材当時のもの。
写真:花木啓示

 


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