「商社とは何か」〈4〉

2017年02月20日

日本貿易会シンポジウム

多彩なビジネスを世界各地で展開する「商社」。だが、それゆえに、商社という企業体及び業界の実像を知ることは非常に難しい。実は、日本の大手商社42社が正会員として名を連ねる一般社団法人日本貿易会もそれを実感しており、「商社とは何か」をテーマとしたシンポジウムを開催している。ここでは同会の許可を得て、「日本貿易会 月報」の中から、商社を志す学生に向け、2014年12月号(No.731)に掲載されたシンポジウム「商社ビジネス最前線~商社とは何か~」を4回に分けて紹介する(所属・肩書は月報掲載時のもの)。

Ⅴ. 第2部パネルディスカッション

飯田 ありがとうございました。それぞれのプレゼンテーションで疑問に思ったことをお伺いできればと思います。住友商事・氏本さんに伺いますが、10年先、20年先を見据え た事業を行っていかなければならないというお話の中で、デジタル化がまだ進んでいないアジアにこれから進出するというお話がありました。その場合に何がポイントになるのでしょうか。

氏本 まずデジタルに移行するスピードと方法の問題があります。アジアのケーブルテレビ事業会社に投資する場合、投資する側にとって、ネットワークのデジタル化を考えている国は非常に投資しやすいと思います。つまり、ネットワークのデジタル化が行われていれば、インターネットの運用やVOD(Video on Demand)の基盤など次の次元の基盤が整備されているからです。外資規制は国によりますが、50%以上の出資ができない国が多く、25%以下に制限している国もあります。われわれが行う事業は長い期間のオペレーションになるため、やはり外資が参入しやすい国に進出することになります。

飯田 豊田通商・大平さんからは、人材育成の一環で、トヨタ・ケニア・アカデミーのご紹介がありましたが、具体的にはどのようなことを行っているのでしょうか。

大平 トヨタ・ケニア・アカデミーは、もともとはトヨタ・ケニアがトレーニングセンターとして設置したものですが、自社だけでなく、アフリカのトヨタの代理店の技術者の養成を目的に設立された経緯があります。トヨタ・アカデミーとして、老築化した設備を建て替えて新しく大きな施設を造り、一般の方に対してもトヨタの技術者養成と同じような内容の講座を2014年10月から提供し始めたところです。地域の技術者を養成し、技術を習得した方々が起業できるようにサービスの講習も行っていますが、その一方で、そうした方々が将来のトヨタのディーラーや販売店になる基盤をつくることも目的としています。さらに、農業機械や建設機械も講習対象としており、経営の方法を学ぶところまで含んでいます。これは豊田通商だけではできないので、国際協力機構(JICA)やケニアの大学などからも講座の提供を受けて形作ることになっています。

飯田 三井物産・鷲北さんに伺いますが、日本が最初に高齢化したのに、なぜ日本で病院事業を始めなかったのでしょうか。これから海外で展開したビジネスを積極的に日本に持ってきて、日本で事業展開することをお考えなのでしょうか。

鷲北 現在、日本では医療法の規定により、株式会社が営利目的で病院経営に参画することは原則できません。従って、日本の医療の変革、改善に貢献したいという気持ちは強いのですが、まずは海外、特にアジアで経験を積んで、その経験を活かして将来、日本国内でも当社が貢献できる事業環境が整備されたときには、ぜひ日本においても病院を中核とした医療事業に携わっていきたいと考えております。

飯田 三菱商事・高岡さんのお話の中で、質の高い情報が得られる関係を構築することが重要というお話もありましたが、具体的には、どういうことなのでしょうか。例えば、米国のシェールガスでキャメロンの話がありましたが、米国エネルギー省から情報を取るためにどういう努力をされたのでしょうか。

高岡 少し前は、海外に人を置いているだけで情報が取れました。今はインターネットの時代で、例えば石油輸出国機構(OPEC)の会議が開催されると瞬く間にOPECの情報が氾濫します。その中で三菱商事としていかに質の高い情報を得るかとなると、当然それは表に出る情報ではなくて、ちょっとしたこぼれ話や、相手の懐に入り込んだインサイダー情報をいかに集められるかが課題になります。特にLNGは巨額投資を要する事業であり、その国のエネルギー政策にも直結します。20年、30年と長く続く契約の中で、お互いが信頼を持ってパートナーシップを組んでいく必要があり、腹を割って適切に情報共有していくことが大切です。

飯田 ご紹介いただいたケーブルテレビ事業、アフリカ市場進出、病院経営事業は商社にとって新しい事業分野です。LNGでもシェールガス事業に出ていくのは新しい試みかと思いますが、どのような点で苦労しているのでしょうか。社外、社内で苦労している点を逆回りでお伺いしたいと思います。

高岡 社外の苦労は、一つのプロジェクトを立ち上げる際、思ったようなコスト、スケジュールで進まない、自分たちの思い描いたプラン通りに相手が動かないなど、枚挙にいとまがありません。社内の苦労は、どこにどのように資金を張り、リスクと利潤の折り合いをつけていくかです。現在、新しい案件と既存プロジェクトの拡張・増強を含めて10件程度のプロジェクトが目前にありますが、これらについて、いつ投資を決定し、資金を拠出すべきか頭の痛いところです。

飯田 韓国やインドも積極的にLNG権益を取ろうとしている中での苦労はいかがでしょうか。

高岡 マクロで見れば、やはり需要の大きい国に情報と金が流れます。かつては皆が日本を見ていましたが、今や日本は世界の市場の一つに過ぎません。原発停止を受けて少しモードは変わっていますが、今後需要の拡大が見込まれる中国、インド、南米等々とLNGを取り合うことも十分に想定されます。一方で当社は韓国、中国とは一部のプロジェクトでジョイントベンチャー・パートナーになっており、彼らと協力して資源、LNGを確保することも大切な課題です。

飯田 鷲北さんはいかがでしょうか。

鷲北 苦労というよりも気を付けている点として、社外に関しては、特に医療従事者の皆さんとグローバルな視点から人的ネットワークを構築していくことが、医療事業を展開していく上で大変大切な要素だという点です。ただ新しい病院を建てて高価で最先端の医療機器を導入すればよいというわけではなく、医療従事者の方々の納得感を得てどのように仕事を進めていくか、時間をかけて丁寧に深掘りして信頼関係を構築していかなければいけないという点があります。社内的には、鉄鋼や化学品など歴史的に長く取り組んできた事業領域では、リスクを察知するアンテナが組織としてしっかりと備わっていますが、先ほどから申し上げている通り、ヘルスケア分野では、当社としてもいまだに経験を積み上げ知見を蓄積している段階でもあり、相手企業やその事業内容に対する評価を会社全体としてどのように判断していくか、といった点に最も注意しています。

飯田 大平さんはいかがでしょうか。

大平 社内ではCFAOを買収して以降アフリカ事業に対する理解が深まってきましたが、まだまだ関心が離れたところにあるのも事実です。その意味では、アフリカのけん引役になろうという意識を持っていろいろな情報を得ていますが、それを聞いてもらえないケースもあります。ただ、最近は以前に比べるとかなり状況が良くなってきたと感じています。社外はアフリカでの苦労になりますが、こちらはやはり人材です。私が駐在したアンゴラは、1974年から2002年まで約27年間、内戦がありました。私どもが代理店を買収したのは2000年ごろで、まだ会社が大きくなく、トヨタ車の販売は200−300台という時期でした。その後の2−3年で売上高は約15倍の3,000−4,000台となり、人員も100人から800人くらいに増えましたが、その時に必要な人材を確保することに非常に苦労しました。

飯田 氏本さんはいかがでしょうか。

氏本 組織ができた1986年は、日本に多チャンネルケーブルテレビという産業が存在していないに等しい状況でした。そこに資金を拠出する判断を下して、9年間努力してジュピターテレコムを設立したのですが、この9年間の苦労は大変だったと思います。赤字が数百億円も積み上がる中で、日本の全世帯の3−4割がケーブルテレビに加入することが起こり得るのかを問われる状況でした。新しい産業を創ることは非常に魅力があるし、やりがいもありますが、草創期におけるご苦労は大変なものだったと思います。また、加入者のクレームというリテール独特の苦労もありますので、やはりリテールビジネスは難しいと感じています。

飯田 最後に、鷲北さんから順に商社ビジネスの面白さ、醍醐味をキーワードでお伺いしたいと思います。

鷲北 商社ビジネスの面白さは失敗から学べるところだと思います。われわれが事業に参画するときは、詳細にわたる精査と徹底した議論を尽くした上で、当然のことながら成功を確信して人もお金も出していくのですが、残念ながら何らかの理由によってうまくいかないこともないわけではありません。その失敗の経験を組織として蓄積し、新しい機能を付加して強化していく。また、そういった中で自分自身の立ち位置を融通無碍に変化させ、周りの環境に合わせて新しい事業に取り組んでいく。そういった「しなやかさ」や「したたかさ」が商社ビジネスの神髄ではないかと思います。

大平 その通りですね。基本的に商社のビジネスはいかにリスクを減らすかだと思っています。それはただ単に、難しいからあきらめるのではなくて、市場に対する造詣も含めて、商社マンとしてのパッションをしっかり皆で共有して進めていこうということがあれば、そういったリスクに立ち向かうことができると思います。

氏本 商社の置かれている事業環境は、非常にチャンスが多いことをここで強く申し上げたい。商社はメーカーのように物を作っていませんし、インフラも持っていません。だからこそ、色が付かないので、ビジネスプロモーターとして相談を受けることが多いのです。

例えばメディアでは、コンテンツがあって、プラットフォームがあって、パッケージで何かお届けするビジネスがあるときに、コンテンツプロバイダーはやはりプロモーターになり得ないのです。なぜかというと、まず1つのコンテンツが決まると、他のコンテンツが入らないのです。インフラにしても、同じようなことがいえます。そういったしがらみがなく、それをコントロールできる立場にあるのが商社なのです。従って、非常にチャンスが多いということをぜひ申し上げたいと思います。

高岡 少し古い表現かもしれませんが、やはり、ヒトとヒト、モノとモノをつないでいくところに面白さ、醍醐味があると思います。そして、それを裏付けるのが、総合力と多様性だと思います。

飯田 第1部で、楠木教授から「商社は丸ごと経営するためのセンスを磨く場である」という話もありましたが、おそらく4人の皆さんが言われたことは最終的にはそういうことなのかなと感じました。本日のシンポジウムが参加者の皆さまの何らかのヒントになればうれしく思います。

(終)


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