「商社とは何か」〈3〉

2017年02月13日

日本貿易会シンポジウム

多彩なビジネスを世界各地で展開する「商社」。だが、それゆえに、商社という企業体及び業界の実像を知ることは非常に難しい。実は、日本の大手商社42社が正会員として名を連ねる一般社団法人日本貿易会もそれを実感しており、「商社とは何か」をテーマとしたシンポジウムを開催している。ここでは同会の許可を得て、「日本貿易会 月報」の中から、商社を志す学生に向け、2014年12月号(No.731)に掲載されたシンポジウム「商社ビジネス最前線~商社とは何か~」を4回に分けて紹介する(所属・肩書は月報掲載時のもの)。

Ⅳ. 第2部「進化する商社ビジネス」

〔モデレーター〕NHK 報道局 経済部 副部長 飯田香織 氏

〔パネリスト〕(発表順)

住友商事株式会社 ケーブルテレビ事業部 部長 氏本祐介 氏

豊田通商株式会社 自動車本部 アフリカ自動車部 部長 大平正和 氏

三井物産株式会社 メディカル・ヘルスケア事業第一部 部長 鷲北健一郎 氏

三菱商事株式会社 天然ガス事業本部 事業戦略室長 高岡英則 氏

 

⑴ 飯田モデレーター挨拶

商社ビジネスはミネラルウオーターから衛星までといわれますが、最近はエネルギー、通信、金融をはじめ、新たな成長分野に進出していることは、私も取材を通じて目の当たりにしてきましたので、第2部では、現場の商社マンから実際にどのようなことをされているのかをお伺いできればと思います。

 

⑵ 住友商事のケーブルテレビ事業  氏本 祐介 氏

私からは当社のケーブルテレビ事業部の根幹をなすジュピターテレコム(J:COM)の事業展開を中心にご説明をしたいと考えています。

ジュピターテレコムができたのは1995年ですから、誕生してほぼ20年たっています。

株主構成は、いろいろな経緯を経て今は当社が50%、KDDIが50%の完全共同経営体制となっています。

J:COMの資本金は376億円で、2013年12月期は売上高4,526億円、純利益509億円です。J:COMの事業の1つ目はケーブルテレビで、70数チャンネルを通じて地域のご家庭にエンターテインメントをお届けしています。2つ目は、無線Wi-Fiなど無線ソリューションも含めたインターネット・サービスで、3つ目は固定電話です。この3つのサービスを、一般的には各事業者ごとにバラバラに加入するところをまとめて加入できるようにしています。最近はNTTもテレビ、ネット、電話をセットで提供するトリプルサービスを行っていますが、日本で本格的にこれを始めた会社は、おそらくJ:COMが初めてではないかと思います。また、現在、電力が一部自由化されていることから、2013年から一部の地域では電力供給サービスも始めており、電力をプラスして4本仕立てでサービスを進めています。

J:COMのサービス提供範囲は、札幌、仙台、関東、関西、九州の5拠点を中心に、日本全国5,200万世帯ある中の1,900万世帯で、日本全体の4割程度の方がJ:COMにご加入いただけるエリアにお住まいです。その中の500万、日本全体から見たら1割程度の方が、テレビ、ネット、電話、いずれか1つのサービスにご加入されています。有料ケーブルテレビ市場だけで見ると、日本全国で約800万世帯が有料ケーブルテレビに加入しているので、約50%をJ:COMが占めていることになります。

住友商事におけるJ:COMの位置付けについて、簡単にご説明します。1980年代は「商社冬の時代」といわれ、プラザ合意後の円高不況など商社にとり非常に厳しい時代でしたが、1985年にNTTが民営化されるなど、通信業界が競争にさらされ始めたときでもありました。

一方、同時期の米国は、ケーブルテレビの加入率が全米で80%を超えており、CNN、HBO等々の有料チャンネル事業者がブレークし始めていた時代でした。こういう時代にあって、住友商事は新たな事業の柱としてケーブルテレビ事業への参入を決めました。ケーブルテレビ事業部ができたのは1986年で、その後1991年に住友商事全社の戦略パッケージとしてまとめた「戦略95」という5カ年計画において、ケーブルテレビ事業部は向こう5年間で日本全国19局のケーブルテレビ会社をつくり、250万世帯ぐらいのエリアで100万世帯、加入率40%を獲得する計画がスタートしました。しかし、19局のケーブルテレビ会社は、それぞれ地域のパートナーが異なるので、経営手法・考え方が多様であり、サービスの中身、料金も19パターンになってしまい、経営ノウハウを共有しにくいことが分かってきました。慎重な検討の結果、統一ブランド、統一経営を掲げた統合運営会社を設立することが最良との結論に至り、全米ナンバーワンのTCI60%、住友商事40%で設立したのがジュピターテレコムです。

次に、ジュピターテレコム(J:COM)の住友商事におけるポジションをご説明します。住友商事の営業部門は、メディアと輸送機、金属と資源・化学品と環境・インフラと5部門があり、これに海外と国内が足されてユニットとしては全部で7つあります。

2013年度の住友商事の税引後利益は2,231億円でしたが、J:COMの利益貢献は316億円だったので、およそ全体の利益の14%を占める事業に育っています。

他商社にはあまり例を見ないこの大手通信事業者との共同事業の他例としては、例えば、KDD時代から国際通信も含めた事業ノウハウを有するKDDIと一緒にモンゴルで行っている携帯電話事業があります。当社の出資比率は約30%ですが、非常にうまくいっています。また2014年9月に発表したように、ミャンマーでも携帯電話事業を共同で進めていますが、これも当社とKDDIが50:50で出資しています。

最後に今後の方向性として、10年、20年先の柱をつくることが大事であると考えており、既存サービスの高度化や、4K解像度で映像を配信する新しいサービスに組み込む他、家の中だけではなくてタブレットやモバイルを利用して家で録画した録画コンテンツを電車の中でも見ることができるようにマルチデバイス化も行っていきたいと思います。M&Aについても、まだまだ余地があると考えています。当社には30年余りのケーブルテレビ事業の経験があるので、M&Aによって放送事業、通信事業のノウハウの移転が可能です。従って、海外事業への進出は成功する確率が高いと考えています。対象エリアとしては、市場の成長率が高くデジタル化が終わっていない例えば東南アジア等に可能性があるのではないかと現在調査をしているところです。ご清聴ありがとうございました。

 

⑶ 豊田通商のアフリカビジネス  大平 正和 氏

私からは、アフリカの市場を「開いて、結んで、支える」努力をしている商社ビジネスをお伝えしたいと思います。

なぜアフリカなのかというと、アフリカは非常にポテンシャルを持った地域と考えているからです。2030年までの世界人口の伸びは40%といわれていますが、その中でアフリカは2050年には20億人になるといわれています。ただし、さまざまな課題があるのも事実です。現在、西アフリカで流行しているエボラ出血熱や、テロや社会不安を非常に多く抱えています。加えて、人口爆発で就業人口が非常に増える中で雇用機会の確保、必要な人材の育成で課題を抱えています。豊田通商はこの課題に正面から向き合っていこうと考えています。

豊田通商のアフリカビジネスの歴史は、1922年、旧トーメンの時代の綿花取引からスタートし、1964年に日本製の完成車輸出を開始して、2014年で50年を迎えます。

1981年にはエジプトの製鉄所建設に着手する等、徐々に事業領域を拡大しました。1990年代に入って政情不安から企業の撤退が続きましたが、当社は自動車代理店事業への出資を含めてアフリカへの事業投資を本格化しました。その結果、トヨタ車販売実績は2000年当時の7,600台程度から、2万3,000台超に増えました。また、2000年からは自動車の生産支援事業として日系部品メーカーとの合弁や当社独自のタイヤ組み付け、ブランキング事業などを展開しています。自動車以外の事業では、エジプトで電力プラントのビジネスを行っており、これまで31件、約2,000億円を受注しています。

また、海洋ガス田の振興、開発に使われるジャッキ・アップ・リグの用船事業を受注し、ガスを掘削しております。

当社は2001年にロンロー・アフリカという代理店事業会社からトヨタの代理店6社を買収して100%子会社とし、輸出業務中心から現地の事業経営に大きくかじを切りました。その後2012年にアフリカ戦略を進める上で大変重要な決断と投資を行い、アフリカの専門商社であるCFAOの株式取得を致しました。

CFAOは1887年創業の約130年の歴史を持つフランスの商社です。最大の強みはアフリカ中西部を中心にアフリカ全域にわたるネットワークを持っていることで、言語や文化の問題もあって日系企業がなかなか進出できなかった西アフリカの地域に一気に進出することができ、当社がビジネスを展開する国はアフリカ53カ国になりました。また、CFAOのグループ化によって多くの優秀な人材を獲得することができたのもCFAO買収の大きな効果だったと思います。

豊田通商のアフリカにおけるビジョンは「事業創造、人材育成、社会貢献」の3つの柱に基づいて事業を展開し、CFAOとあらゆる角度から協業を進めることによって、アフリカにおけるリーディング企業になるというものです。

まず、事業創造の取り組みです。モビリティー分野では、ケニア中間層の需要は中古車が多いものの、悪質な中古車販売業者とのトラブル発生が非常に多い状況であったことから、品質を担保し透明性の高いサービスを行う中古車販売サービス事業と購入をサポートする自動車ファイナンス事業を数年前から始めました。また、ライフ&コミュニティー分野では、当社の信用力や資金調達力を生かして、CFAOがカルフールと共同で取り組んでいる中西部アフリカ8カ国での展開を予定しているスーパーマーケットやショッピングモール等モダンリテール事業の大幅拡大をサポートしていきたいと考えています。加えて、近年は、アフリカで進められている地域経済共同体構想に着目し、この構想が進んでいるケニアを含む東アフリカ地域を意識して、2012年に東部13カ国をカバーする豊田通商イーストアフリカを設立しました。ケニアにおけるアフリカ最大の地熱発電所建設や自動車のバリューチェーン構築など、ケニアをハブに成功事例を広げていきたいと考えています。

第2の柱である人材育成については、現地の雇用やスキルアップが大きな課題となっています。当社は現地スタッフの積極登用を強く意識し、各階層でキャリア開発と教育機会を提供するために、南アフリカの統括拠点である豊田通商アフリカにセンター・オブ・エクセレンスという人材教育専門チームを立ち上げました。スタッフ層にはマーケティングやITのスキルトレーニングを行い、マネジメント層にはリーダーシップトレーニングを行っています

また、ケニアではさまざまなテクニカルカレッジで技術者を養成していますが、教育の質が産業界の技術進歩に追い付いていないため、結果として実務能力の低い技術者が多数いるのが現状です。このためトヨタ・ケニアでは、老朽化したトレーニング施設の新設・移転を機に、自動車分野における自社の人材育成に加えて、農業機械、建設機械の修理技術を一般の方が習得できる訓練校「トヨタ・ケニア・アカデミー」を設立し、2014年7月に開校しました。この訓練校はケニア政府からも大変に期待されており、技術者の養成だけでなく、経営人材など幅広い人材の育成を目指して、ケニアのみならず近隣のアフリカ諸国に貢献していきたいと思っています。また、この構想はケニアから近隣アフリカ諸国に積極的に展開していこうと考えています。

社会貢献活動の事例としては、当社は、アフリカ各国において現地に暮らす人々の雇用創出、所得の向上、生活、福祉環境の改善と問題解決に直結した事業を発掘して育成していくことを目的に、アフリカで日本企業初となる社会貢献型ベンチャー育成基金をモーリシャスに設立しました。今回ベンチャーファンドを立ち上げたことで、雇用、環境、教育、福祉といった分野において、アフリカの人々自身による小規模事業の育成、支援を通じて、さらにアフリカと日本の事業の橋渡しに貢献していこうと考えております。

こうした私どもの現地に根付いた事業・取り組みを通じてアフリカの人々とともに成長していきたいと思います。ご清聴、ありがとうございました。

 

⑷ 三井物産のメディカル・ヘルスケア事業について  鷲北 健一郎 氏

私からは、三井物産が推進しております病院を中核としたヘルスケア事業についてご説明します。海外における商社のヘルスケア事業をご理解いただく一助になれば幸いです。

まず、なぜ商社が病院経営事業やヘルスケア事業に取り組んでいるのかをご説明します。

三井物産は創業以来、世界のさまざまな地域で、その国や地域の経済発展に寄与することを目的に、食糧などの生活に不可欠な物資の安定的調達、あるいは発電所や通信事業など社会インフラの整備といった事業に長年にわたって携わっています。そういった視点でアジアを中心とした新興国の現状を見たとき、その経済発展の進度と比較して、医療や教育などそれぞれの国や地域の基礎的社会インフラの整備がまだ十分に進んでいるとはいえない状況にあり、その産業的解決を目指し、当社はメディカル・ヘルスケア事業部を2008年に新設し、病院を中核としたヘルスケア事業に取り組む決断をしました。

医療を取り巻く大きな流れとして、人口増加、高齢化、経済成長に伴う疾病構造の変化があります。経済的に社会が豊かになり、生活が安定し栄養状態や衛生状態が改善されてくると、感染症などの病気が減り、逆に、糖尿病や高血圧、がんなどのいわゆる生活習慣病が増えてきます。その結果、医療が長期化し高度医療に対する需要が増加しますが、これは見方を変えれば、ヘルスケア市場の成長要因になっているとも捉えることもできます。

日本では1970年に65歳以上の人口が7%となる「高齢化社会」に突入し、1994年に14%となり、当時世界で最も早い時期・スピードで「高齢社会」に入りました。日本は24年の時間をかけて高齢化率が2倍になったわけですが、その倍加年数はシンガポールでは17年、タイは23年、中国は24年など、日本を上回る、あるいは同等のスピードでの高齢化がアジア新興国では進んでいます。結果、アジア新興国では医療の供給が追い付かず、需給ギャップが非常に大きくなってきています。

加えて、アジア新興国合計では、2000年から2020年までの20年間で中間層、高所得層の人口が約10倍に増加するとの推計もあり、所得レベルに応じた適切な医療インフラの整備が社会的な課題になっています。

こうしたアジア新興国の医療における課題解決に向けた取り組みとして、三井物産は、2011年、アジア最大の民間病院グループであるIHHヘルスケアに約900億円を出資し経営に参画し、医療の質的・量的な向上、医療インフラの拡充に取り組んでいます。IHHヘルスケアは2012年にシンガポールとマレーシアで二重上場し、現在の出資比率は当社が約20%、事業パートナーの一社であるマレーシアのソブリンファンドのカザナナショナルが約44%の株式をそれぞれ保有し、上場する民間病院グループとしては世界第2位の株式時価総額となっています。

シンガポール最大の民間病院事業会社であるパークウェイ、マレーシア第2位の民間病院事業会社のパンタイは、それぞれIHHヘルスケアの100%子会社です。また、2012年にはトルコ最大の民間病院事業会社アジバデムへも60%の出資を果たし、中東地域への地理的拡大も図っています。当社は、ただ単に出資するだけではなく、IHHヘルスケア本体や、事業会社であるパークウェイ、パンタイ、アジバデムにそれぞれ取締役を派遣するとともに、IHHヘルスケアおよびパークウェイに複数名の出向者を派遣し、グループ全体、そして各事業会社の経営にも深く関与しています。

IHHヘルスケアは、シンガポール、マレーシアを中心とする東南アジアに加えて、トルコを中心とする中東、そして中国やインドにおいて事業展開を加速しており、グループ全体として現在37病院、約6,000病床を保有しています。

医療はその国の法制度や医療保険制度などに大変密接に関連する事業なので、それぞれの国や地域での事業展開に当たっては、地場の優良事業パートナーとの協業が不可欠です。

例えば、シンガポールは日本とは異なり、完全自由診療制度であるため、医療はマーケットやサービスの競争に常にさらされています。最新の医療技術と充実したサービスを提供する病床数333床の病院として2012年に開院したIHHヘルスケア傘下のマウント・エリザベス・ノビーナ病院では、一般的なスタンダードルームに加えて、中東の富裕層、先進国の国賓クラス向けにご家族やボディーガードと共に滞在できるスイートルームを設けるなど、患者さんのニーズに応じて、バラエティーに富んだ療養環境、院内サービスを整え提供しています。

独立した開業医の皆さんがメディカルスイーツ棟にそれぞれのクリニックを構え、ICU、手術室がある共用棟の設備使用料を利用した医師にお支払いいただき、333床ある入院棟のベッド使用料は患者さんにお支払いいただく課金システムとなっています。また、優秀な医師、看護師といった医療従事者の皆さんが安心して最適な医療を提供できる環境の整備に最大限配慮していることに加えて、ハイブリッド手術室を完備するなど設備面でもアジア最先端の医療技術を導入しています。

2014年5月にパンタイ・マンジュン病院が開院したマレーシアには12の既設病院があり、現在建設中の2つの病院も2015年中には開院予定です。また、インドではIHHヘルスケアが約11%出資しているインド第2位の民間病院アポログループとの合弁で、2013年に425床の新しい病院を開院しました。インドの病院には、ミャンマー、ネパール、ブータンといった国々からも患者さんが来ています。今後は、ベトナムやブルネイ、UAE、イラクなど医療の需給ギャップが相対的に大きい地域に事業拡大していきたいと考えています。

IHHヘルスケアは高度先進医療を提供する民間病院グループですが、それぞれの国・地域にある公立病院と役割を分担しながら、民間病院ならではの医療を提供しています。

IHHヘルスケア傘下の各病院はそれぞれの国における社会貢献活動にも積極的に参加しており、例えば、医療の無償提供や啓蒙活動も頻繁に行っております。

三井物産のヘルスケア事業戦略は、それぞれの地域の中核病院を中心に、1次医療を担うクリニック・診療所、そして予防を担う健診センター、退院後のリハビリセンター、さらには高齢者用住宅など、中核病院を中心にそれぞれの相互連携を促す形で地域に根差した医療システムを構築していくことを目標としています。

中核病院の周辺に位置付けられる具体的事業として、当社は、京都大学の田中紘一名誉教授グループと共に、先ほどご説明したシンガポールのマウント・エリザベス・ノビーナ病院の中に、肝臓疾患・生体肝移植専門クリニックを2013年に開院するなど、日本の最高の医療技術、サービスをアジア新興国において提供することも目指しています。

また、神戸では、2014年11月に開院予定の神戸国際フロンティアメディカルセンター(KIFMEC)に建物を賃貸する特定目的会社に出資参画しています。KIFMECとシンガポールの生体肝移植クリニックの相互連携に加えて、IHHヘルスケアの持つ海外医療ネットワークとも有機的につなぎ合わせることで、高度医療を求めるアジア各国の患者さんのニーズに応え、同時に本邦医療産業の国際化にも貢献していければと思っています。

三井物産は、より良い医療システムの構築を目指して、不足する医療インフラを拡充し、日本が誇る高度医療サービスや技術などを海外に輸出し、医療サービスの質的・量的貢献に引き続き挑戦してまいります。ヘルスケア事業に本格的に取り組むのは当社にとっても初めての試みであり、まだまだ学ぶことは多いですが、将来、本邦においてもより良い医療システムづくりに貢献できればという強い思いを持ちながら、国内外での事業に挑戦してまいります。ご清聴いただきありがとうございました。

 

⑸ 三菱商事のLNG事業  高岡 英則 氏

私からは、三菱商事のLNG事業についてご説明します。世界の天然ガス市場は石油換算で約30億t、LNG換算では24億tで一次エネルギーの23.7%を占めています。そのうちの約69%が産出国で消費され、市場で取引されているLNGは全体の10%の2.4億tですが、日本がその約3分の1を輸入しています。天然ガスの取引はパイプライン輸送がほとんどで、マイナス162度の超低温の液体であるLNGにしてタンカーで輸送されるのは約1割です。東日本大震災以降、原発が止まったのでその代替燃料としてLNGの輸入が増加し、その供給の確保や価格の問題でLNGが世間の耳目を集めています。

天然ガスは、環境に優しく埋蔵量が豊富かつ世界中に分散しているため、今後も特に発電用燃料として需要の拡大が見込まれています。また、シェール革命によって埋蔵量が100年以上に延びたといわれています。

三菱商事のエネルギー事業グループは4事業本部で構成され、私が所属する天然ガス事業本部はその一つです。プロジェクトごとに事業部を組成し、現在10部3室に約300人が所属する当社でも最大の事業本部です。三菱商事は世界に約200カ所の営業拠点を持っていますが、LNGの事業拠点は約25カ所です。産ガス国のサプライヤーサイドとマーケットサイドの両方に人材を配置し、質の高い情報へのアクセスとパートナーや取引先との良好な関係構築が当社の生命線です。

2013年の日本のLNG輸入量は約8,700万tですが、当社の取り扱いはその約4割を占めます。また、韓国、台湾、中国等への供給数量を合計すると約6,000万tとなり、世界中のLNG取引の約4分の1に三菱商事が関与していることになります。

三菱商事のLNG事業の変遷は、1960年代にLNG導入の検討を開始して以来、今日に至るまで約50年にわたります。1969年にアラスカから日本初のLNGを供給して以降、ブルネイ、マレーシア、インドネシア・アルン、西豪州、オマーン、サハリン、インドネシア・タングーとプロジェクトを順次立ち上げ、現在は6カ国で9プロジェクトが稼働中です。

新しい案件としては、既存プロジェクトの拡張に加えて、インドネシア・ドンギ、豪州ウィートストーン、米国キャメロン、豪州ブラウズ、カナダ、イラクを検討中です。これらは2020年前後の立ち上げを目指しています。

LNGプロジェクトには電力・ガス会社、石油開発会社、鋼管会社、エンジニアリング会社、造船会社、船会社など多くの会社が関与します。資金調達においては市中銀行だけでなく、国際協力銀行(JBIC)、石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)、日本貿易保険(NEXI)など、政府機関にもお世話になっています。また、産油・産ガス国の政府や国営会社、メジャーズ等もいます。そういった多様な取引先との間で機能を補完し、リスクを分担しながらパートナーシップを形成しています。多様なプレーヤーといかに信頼関係を築いて、これをいかに束ねていくかがLNGプロジェクトの成否を決めると思っています。

当社はLNGバリューチェーンの中で機能と役割を徐々に拡大してきました。初のプロジェクトであるアラスカでは売り主と買い主の間でマーケティングを担ったのですが、ブルネイで売り主サイドの液化事業に投資し、西豪州プロジェクトでは上流のガス開発・生産から液化、輸送、販売まで一貫したLNGの開発・操業事業に参画しました。サハリンも同様です。インドネシア・ドンギでは初めて中流のオペレーターとなって2015年の立ち上げを目指しています。さらに、米国キャメロン、LNGカナダは北米のシェールガスを源泉としており、パイプライン事業にも参画しています。

個別のプロジェクトのいくつかをご紹介します。まずブルネイですが、1967年の投資決定時は「失敗したら三菱商事が3つ潰れる」といわれるほどの巨大プロジェクトでした。

1972年12月に大阪ガス泉北工場に第1船を受け入れるまで、1963年のガス発見から約10年を要しました。1969年のブルネイLNG設立当初の三菱商事の出資比率は45%でしたが、資源ナショナリズムの高まりを背景に、当社の持ち分は1976年に33.3%に、1986年に25%にそれぞれ引き下げられました。ブルネイは当社にとって大切なパートナーであり、LNG産業のみならず広い分野で同国の発展に貢献することも重要なミッションです。かつては30年間以上にわたり牧牛や水耕栽培事業を手掛けてきましたが、近年は太陽光発電やバイオビジネスなど、ブルネイ政府と一緒になって検討を進めています。

インドネシアのドンギは初めてメジャーに依存せず、当社がオペレーターとなっているプロジェクトです。LNG事業が世界に広がりプレーヤーが多様化する中、いわば「商社中抜き」の危機感を背景に、当社として新たな機能を担う一大覚悟を決めたチャレンジングな取り組みです。2006年にインドネシア政府からパートナーに選定されました。2011年に最終投資決定を行い、インドネシアの独立系石油会社および韓国コガスと合弁でLNG液化基地の建設を進めています。2015年後半に第1船を日本に迎える予定です。

LNGカナダはシェル、中国、韓国との共同プロジェクトですが、2020年ごろから1,200万tのLNGを供給する予定です。もともと米国はLNGの輸入ポジションだったので、当社も2000年代に米国にLNG受入基地を造る計画でしたが、シェール革命で環境が一変。2008年にLNG受入基地事業から撤退して、カナダからLNGを日本に輸出する検討を始めました。2010年にペンウェスト社、2012年にエンカナ社からシェールガス鉱区の権益を取得してガスを確保し、2014年5月にはシェルを中心とするLNGカナダ社を設立しました。北米ガス由来のLNG導入に期待する声が高まっている中、2016年には最終投資決定を行い、2020年に第1船を日本に迎えたいと考えています。

三菱商事が50年にわたるLNG事業を通じて目指すものは、まず第1に「資源を持たざる国」日本に対するエネルギー安定供給への貢献です。第2は「売り主と買い主の間にWin-Winの関係」を築くことです。マーケットは生き物で価格の高い、安いはありますが、双方がいわゆる「引き分けの精神」でプロジェクトを育てていくことが大切です。長期的な視野に立った信頼関係の醸成と、市場の変化やニーズに呼応した契約条件の見直しなどを粘り強く続けていかなければなりません。第3は「適正な利益」の追求です。LNGは巨額の投資を要するので当然に経済性が問題となりますが、環境リスクや、産油国・産ガス国対応など多くのリスクをコントロールし、適正な利益を上げるべく努力しています。

三菱商事には「所期奉公、処事光明、立業貿易」という三綱領があります。特に「所期奉公」の精神はLNGビジネスにピタリと当てはまります。持たざる国である日本に資源を安定供給し、しっかり支えていくことが三菱商事の使命だと思っています。ありがとうございました。

 

⇒〈4〉へ続く


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