商社の仕事人(5)その2

2019年12月19日

豊田通商 待鳥真由子

 

ラストフロンティアである

アフリカにビジネスの礎を築く

 

 

出来過ぎの資料でまさかの不和に

フランス郊外にあるCFAO社に出向き、CSR活動に関する第1回目のミーティングが行われたときのことだった。日本の企業におけるミーティングと言えば、議題に関する様々な資料を用意するのは当たり前のこと。もちろん待鳥も、企画内容やデータを詳細に整理し、分かりやすくまとめたペーパーの資料を持参してミーティングに臨んだ。

「先方の担当者は、CFAO社の役員で、私よりもずっと年上のローレンスという女性の方でした。だから私も、失礼があってはならないと、いつもより気合いを入れてたくさんのミーティング資料を作っていきました。ところが、この資料をもとに私たちが提案を始めると、ローレンスの顔が途端に曇っていったんです。そして、何も話さなくなってしまった。私にはその理由が分からず、心に引っかかっていたのです」

何も実りのないまま、不調に終わったミーティングだったが、ローレンスはその日、待鳥をディナーに誘ってくれた。そこで、思い切ってミーティングの感想を訪ねてみたのだ。

「すると、驚くべき答えが返ってきました。ミーティングだと思っていたが、まるで決定事項かのような企画書を見せられたため、すでにCFAO社の意見が入り込む余地はないのだと感じた、というのです。フランスの企業では、ミーティングと言えばフラットな状態から始まって、一から意見を出し合う場所。資料など準備することもないため、日本のやり方だと決定事項の確認作業のように感じられたようなのです。私はすぐさま誤解を解き、資料はアイデアを出すうえでの参考だっただけで、あなたたちと一から作り上げていきたいと、誠心誠意伝えました。彼女もようやく分ってくれて。以降は、日本とはカルチャーも感覚も異なる相手であることを常に心がけるようにしました」

また、資本関係では親会社の立場である豊田通商だが、〝大株主からの意見に従う〟とCFAO社側に感じさせたのでは、アフリカという市場を共に開拓していくことは難しいと待鳥は考えたという。共に作ったものを共に進めていくというマインドを持ってもらうことこそが、シナジー創出への第一歩であるためだ。以降、待鳥の尽力で両社の連携は強固なものとなり、CFAO社側にも豊田通商との共同案件だからこそ規模の大きいプロジェクトに乗り出せるという期待感も生まれたことから、様々なCSR活動の種が生み出されていったという。

⇒〈その3〉へ続く

 


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