商社の仕事人(8)その2

2020年03月16日

伊藤忠丸紅鉄鋼 栗田貴史

 

全力で

「人と人との取引」に邁進する

 

 

文化を受容し尊敬する

大学時代、栗田は鉛や亜鉛など非鉄金属のリサイクルの研究をしていた。同級生のほとんどが大学院に進み研究を続ける環境だったが、学部卒で就職という選択肢を選んだ。しかも研究職ではなく総合商社である。

「金属の研究は実験なども多く、大変勉強になりました。しかし将来研究者/技術者としてメーカーなどで働いても、自分の望む人生は描けませんでした。元々私は研究室で金属とにらめっこしているよりは、生身の人間と話をしたり交流したりするほうが好きですし、そのような仕事を希望して商社業界中心に就職活動をしました」

総合商社の丸紅に就職を決めた栗田だったが、仕事は予想以上に厳しいものだった。新入社員研修後に配属された鉄鋼製品部門は、まさに日本の基幹産業を支える部門。国内には世界的な鉄鋼メーカー、自動車メーカーが存在し、競争相手も多く、世界中の情報をすばやく収集して、ビジネスを成立させていく難しさを痛感した。

「我々は基本的に世界中の全てのお客様を信用してビジネスをしていますが、残念ながら今の世の中は、悪意を持ってやろうとすれば、大抵のことができてしまうというのが現実でもあります。ですから、お客様とはできるだけ直接お会いして、お話をさせてもらうようにしています。お客様としても、取引先の顔が見えた方が安心でしょうし、私の方も、お話をすることによって、きちんと契約を守ってもらえる、信用のできる相手であるかどうかを判断することができますからね。商売というのは、あくまでも人と人との信頼の上に成り立つものですから」

栗田がこのビジネススタイルを築くまでには、数々の経験を積んできた。

その中でも、最も鮮やかに印象に残っている経験は、アフリカのとあるメーカーとの取引の時のことだ。人と人との取り引きを信条とする栗田は、ぜひとも顧客企業の担当者に会って、直接話をしてみたいと思い、アフリカへと飛び立ち、空港に着くやいなや、販売先の企業へ向かった。到着すると、何度かメールでやり取りをしたことのある担当者が笑顔で迎えてくれた。そして、挨拶もそこそこに、「わざわざ遠いところから来てくれてありがとう。是非食事にでも行きましょう」と誘ってくれた。

栗田の労をねぎらってやろうというわけである。無論、栗田には断る理由などない。ところがその席で、フォークやナイフを使わず、指で食事をする彼らの食事の仕方に驚かされた。伝統的にそういう食べ方をする人たちがいるということを知ってはいたが、実際に目の前にすると、さすがの栗田も動揺した。しかし、栗田は彼らと同じスタイルで一緒に食事をするようにした。現地の人たちと本当に打ち解けることができたのは、その時だったと感じている。

「世の中には文化の違いというものが存在していますから、これはお互いにリスペクトし合わなければいけない、と思いました。自分が指で食事をするかどうかは自分の判断として、そういう文化があるということは理解し、受け容れることが重要なのです。日本の文化の方が優れている自分のほうが勝っているなどと思い込み、それを押しつけようとしたりするような人は、むしろ海外へは行くべきではないと思います。今までは確かに日本が優位に立っていたところもあったかもしれませんが、これからはそういう考えでは絶対にうまくいかないと思います」

これは、多くの海外ビジネスを経験し、成功させてきた栗田の大事な教訓である。

私たちは、「グローバル化」という言葉をよく使ってきたが、本当の意味でのグローバル化とは、経済やビジネスのバックグラウンドであるそれぞれの国や民族の文化を理解すること、あるいは理解しようと努めること、そして受け容れることが何より重要であるのだということを、栗田は身をもって教えてくれた。

そんな栗田は、インドネシアという国で新たな経験をすることになる。

⇒〈その3〉へ続く

 


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