商社の仕事人(9)その1

2020年04月30日

JFE商事 坂野 達也

 

知力と人間力を駆使し、

高いステージで

世界の鉄鋼ビジネスを仕掛ける!

 

【略歴】
1982年名古屋市生まれ。名古屋工業大学工学部卒。2006年入社。

 

いざ、勝利の街へ

インドネシアの首都、ジャカルタ――。
その名を「偉大なる勝利(ジャヤ)」と「街(カルタ)」に由来するこの大都市には、1967年のASEAN発足以降、その本部が置かれており、現在では世界50か国以上の国々がASEAN大使を常駐させ、東南アジアにおける高度な政治的機能を担う都市としてその重要度は高まってきている。また、近年、経済発展も著しく、ジャカルタを中心とした都市圏人口は2200万人を超えて世界第4位となり、今なお膨張を続けている。

2009年9月1日、この活気に満ちた世界屈指のメガシティを目指し、一路、成田空港を飛び立った男がいた。JFE商事の現地法人であるインドネシアJFE商事会社ジャカルタ本店に駐在することになった、入社4年目の坂野達也である。

坂野がジャカルタに向かうのは、これが3度目。1度目と2度目は、ジャカルタ駐在の辞令を受ける直前まで所属していた第一鉄鋼貿易部熱延鋼板貿易室での仕事で、いずれもインドネシアの企業と熱延鋼板の価格交渉を行うための短期出張だった。

熱延鋼板とは、スラブと呼ばれる鋼片を千度以上に加熱した後、一定の薄さに圧延して巻き取った鋼帯(コイル)のことで、建築物から橋梁、船舶、自動車、鉄道車両など、幅広い分野で大量に使用される汎用性の高い鉄鋼製品である。特にJFE商事の扱う熱延鋼板はその品質の高さから世界中で需要が高く、熱延鋼板貿易室は、JFE商事の中でも取扱数量の大きな部署の1つだった。当時、坂野がこの部署で任されていたのは、基本的にはデリバリー業務。つまり取引先から受注した様々な熱延鋼板を、納期に合わせて生産の進行を確認し、配船や輸出などの手配をして、納品までの管理を一貫して行っていた。普段は机の上に置かれた書類の山を1つひとつ処理するというデスクワークが多いが、担当するエリアによっては直接商談をすることもあり、必要に応じて海外に出張することもあった。取引先として大きな比重を占めている韓国向けには、デリバリー業務を担当し、スポット取引の多いマレーシア、ベトナム、そしてインドネシアなど東南アジアの企業とは、坂野自身が直接出向いて商談することもあった。

ただし、若干の不安もあった。交渉の場での会話はすべて英語。坂野は英語に自信があるほうではなかったのだ。もちろん、学生時代にワーキングホリデーを使って10か月、オーストラリアで暮らしたことがあり、ベーシックな部分での英語力にはなんら問題はない。だが、仕事での交渉ごととなると話は違う。現地法人の社員やナショナルスタッフに通訳してもらう方法もあったが、それは坂野がよしとしなかった。そこで坂野は考えた。それは交渉内容をすべて英語でシミュレーションしておくという方法である。

「事前に英語での交渉を想定し、それについて経験豊富な先輩にアドバイスをもらいます。行きの飛行機の中では、ひたすら交渉のシミュレーションをするんです。フライトの間は映画なんて1つも見る暇はありません(笑)」

この機内での徹底的な〝ビジネス英語シミュレーション〟の甲斐あって、坂野はいずれの出張でも無事に商談を終えた。

「なんて楽しんいだ、この商売は」

坂野は心の底からそう感じた。それは、自分で判断ができるビジネスだった。ただそこにはインドネシアの人々の多くが親日家であるという点も見逃すことができない。価格交渉自体は確かにシビアなものだが、若い日本人が語るたどたどしい英語にもしっかりと耳を傾けてくれる。そんなリスペクトを坂野は感じていた。

「この国に来て働きたい」

坂野はいつしか強く思うようになった。

「出張に行ってから、インドネシアとの相性の良さを感じました。インドネシアは2億4000万という中国、インド、アメリカに次ぐ規模の人口もあり、JFE商事が扱う鉄のマーケットとしては大きな可能性を秘めています。それを自分の力で開拓し、自分の裁量でビジネスにつなげていきたい。それこそが商社パーソンの仕事だと思いました」

そして初めてのインドネシア出張からおよそ2年後、その願いは叶えられることになった。

ジャカルタ北西部の郊外にあるスカルノ・ハッタ国際空港――。

 

坂野を乗せて成田を飛び立った飛行機は、約8時間のフライトを経て、滑走路へと舞い降りた。九月のジャカルタはひと月の降雨量が30ミリという乾季の真只中。熱風が身体を隅々まで包み込むなか、坂野は満を持して〝偉大なる勝利の町〟へ足を踏み入れた。

⇒〈その2〉へ続く

 


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