商社の仕事人(9)その2

2020年04月30日

JFE商事 坂野 達也

 

知力と人間力を駆使し、

高いステージで

世界の鉄鋼ビジネスを仕掛ける!

 

自ら挑んだ〝千尋の谷〟

順風満帆に商社パーソンのキャリアを積み上げているように思える坂野。だが、その道のりは決して平坦とは言えなかった。もともと名古屋工業大学工学部出身だった坂野は、就職活動を始めるに際して、専門である「理系」を捨てる覚悟をしていた。

「高校時代に理系科目が得意だったので工学部に進んだのですが、大学で学んでみて、それは将来自分がやりたい仕事ではないことに気づきました。でも、仮説を立てて前提条件を並べ、結果を見て考察するという、問題解決のアプローチ方法を身につけることができ、それは今でも私の大きな武器となっています」

そんな坂野が絞り込んだ業界は商社だった。とりわけ鉄を扱う商社に興味を惹かれた。

「工学部出身だからでしょうか、なんとなくモノ作りの匂いを感じたことと、異なる言語の世界で暮らしてみたいという欲求があったこと。その2つが重なり合ったところにあったのが、鉄の商社だったのかもしれません」

いくつかの商社を回り、面接まで進んだ坂野が好印象を抱いたのが、気さくな雰囲気の中でも〝熱さ〟を持った社員の多いJFE商事だった。面接官はいつも温かく見守ってくれているようで安心できたという。

「アットホームな雰囲気だったので、ありのままの自分で面接に臨むことができました。ところが、入社してみて感じたJFE商事の大きさには驚きましたね」

そしてJFE商事に入社した坂野が配属されたのは、先に述べた第一鉄鋼貿易部熱延鋼板貿易室であった。入社1年目は、OJTの先輩社員の指示にしたがい、書類の処理を行う毎日だった。それは坂野の思い描いた商社パーソンのイメージとはかけ離れた単調にも感じる日々だった。しかし、数多く製品名が記された書類に毎日目を通すことで、次第に製品知識が身につき、またデリバリー実務をこなすことで、ビジネスの全体像を現実の作業を通して掴むことができたのも事実。それは、あえて言えば一流アスリートたちが行う単調かつ必要不可欠な基本動作の反復トレーニングにも似ていた。

しかし、2年目になり、そんな坂野の業務に突如として転機が訪れる。なんと大口の取引先である韓国企業の担当者に抜擢されたのである。

坂野が入社した2006年は、世界同時不況の端緒となったリーマンショックの2年前。いまだ世界経済は好況に沸き、熱延鋼板は世界中で引く手あまたの状況が続いていたため、ほとんどの社員が溢れるほどの仕事量を抱えていた。そんな中、その韓国企業担当に欠員が生じたのだが、人員の補充は難しい状態。それを知った坂野が手を挙げたのである。

「私にやらせていただけませんか。全力を尽くします」

その熱意が伝わり、坂野は担当を任されることになった。

「ありがとうございます。こんな若造に大役を任せていただいて」

坂野は深々と頭を下げた。なにしろ会社の中でも大きな取扱数量を誇る取引先の担当を、入社2年目にして任されたのである。売上が多いということは、当然、書類に記載される品種の数も膨大だ。しかも、それら1つひとつに工程表を作成し、生産と納品期日を逐次チェックしていかなければならない。それは途方もない仕事量であるが、坂野はそれを知っていながら、自ら千尋の谷へと飛び下りたのだ。谷から這い上がれるという確信があったわけではないが、坂野はやり抜いて見せるという気概と何事にも動じない胆力だけは持ち合わせていた。

その韓国企業には日本支社があり、さっそく日本支社の担当者と坂野、さらに高炉メーカーの担当者と3人で、週に2回、デリバリー会議を行うことになった。

発注する側は製品の種類と数、納期を決める。その生産やデリバリーの状況を管理するのが商社の機能である。しかし、現実問題としてこの管理業務においては多くの問題や困難が生じる。そこで坂野は、発注する側である韓国企業からプライオリティの高い製品、例えば納期に遅れると生産ラインが止まってしまい大損害を与えかねないものをヒアリングする。この情報をもって、高炉メーカーに生産の優先順位の組み直しの可能性を探り、時には調整を依頼する。

この交渉や調整を何度も繰り返すのだ。当然必要となる資料も煩雑で大量にあるが、気の休まる暇などないこの業務があってこそWin-Winの結果を提供できるのだ。

「双方にベストな調整をするのはなかなか大変です。それは担当者とどこまで腹蔵なく話し合えるかにかかっています。例えば、注文を受けた全てを一度に納入できないこともあります。こんな時は取引先が求める優先順位を探り、数回に分けて納入するわけです。双方と綿密な打ち合わせのもと取引を進めたにもかかわらず、ささいな行き違いから大きなトラブルとなるのです」

坂野はそうしたトラブルを未然に防ぎ、その韓国企業や高炉メーカー担当者との間に、より親密な関係を築こうと、親睦会やミーティングを頻繁に開いた。こうして入社4年目の夏までの2年間、坂野は脇目もふらず仕事に専念した。その結果として、製品知識やデリバリー実務だけではなく、人間関係の構築という、ある意味、仕事を進める上で不可欠なスキルを鍛えることもできた。

そして2009年9月、冒頭で紹介したように、JFE商事のインドネシア現地法人への駐在という夢を叶えることもできた。坂野は自ら挑んだ千尋の谷から、見事に這い上がってみせたのだ。

⇒〈その3〉へ続く

 


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