商社の仕事人(9)その4

2020年04月30日

JFE商事 坂野 達也

 

知力と人間力を駆使し、

高いステージで

世界の鉄鋼ビジネスを仕掛ける!

 

〝鉄のプロ〟の醍醐味

「実は毎年、年始に目標を立てているんです。〝早寝早起き〟とか〝単語帳を毎朝5分読む〟とか。その年の年始の目標は〝エネルギー分野の克服〟でした。実はこれ、私の最も不得意な分野だったんです」

坂野の異動先は、JFE商事東京本社・エネルギー鋼材貿易部エネルギー鋼材・鋼管貿易室。なんと坂野が自ら「克服したい」と思っていたマーケットだったのである。

このエネルギー鋼材・鋼管貿易室で扱っているのは、石油やガスなどのエネルギーを採掘、生産、輸送するために使用される鋼管、鋼板、鋼管素材である。エネルギーに関連する製品のため、取引先は石油・ガスの開発地域や生産地域、またそこで使用される構造物やパイプ製品を製造している地域、つまりアメリカ、韓国、東南アジア、インド、中東、トルコなどの国や企業。その中で坂野が担当しているのは洋上に設置される石油・ガスを掘削・生産する海洋構造物に使用される厚板やラインパイプの素材となる熱延鋼板。取引先は構造物のファブリケーター(製造・加工業者)、ラインパイプ製造ミル(鋼管メーカー)、鉄鋼問屋である。

「エネルギー関係は、もともと不得意ではあったのですが、配属されてみて、〝俺ってこんなに仕事ができないんだ〟と実感しました」

こう言って坂野は笑う。入社以来、坂野が携わってきたのは、アライアンス先と大きい契約に基づき、安定して収益をあげる仕事。坂野はこれを「農耕型」と言う。一方、一部の問屋を除いて、すべて案件ベース、つまりプロジェクトベースでのスポット商売となるエネルギー鋼材・鋼管の取引は「狩猟型」で、考え動き、案件を積み上げていかなければ、収益の確保が難しいビジネスである。

「例えば、オイルメジャーが油田を掘削するために海洋構造物建設のプロジェクトを立ち上げるとします。構造物などはファブリケーターが作りますが、1社がすべてを作るわけではなく、パーツに小分けされて、さらに数々のファブリケーターへと流れていく。どこのファブリケーターはどの商社の商流だから、購買権はどこにあるとか、このファブリケーターに流れてきたらうちに来るとか。あるいは、そのプロジェクト自体に他の商社が出資している場合もあり、そうするとその企業の独壇場になる場合もあります。そのうえ、鋼材の仕様もきっちり決まっていて、英語で何十ページにも渡って細かく書かれた仕様書が回ってくるわけです。海洋構造物の場合、付加価値の高いハイグレードな鋼材が求められていることが多く、日本の製品に対するニーズは高い。また、オイルメジャーが高炉メーカーから直接購買するケースもあります。このように、とにかくビジネスの仕組みは複雑多岐に渡りますから、ファブリケーターなど取引先とのハードな交渉力もさることながら、極めて専門的な製品知識も必要ですし、プロジェクトの細部の関係性までしっかり掴んで全体像を描ける能力も必要です」

2013年9月、インドネシアからの帰国後、坂野はこのエネルギー分野の鉄鋼ビジネスを徹底的に研究している。「まだ修行中の身です」と冗談っぽく笑うが、商社パーソンとしてこれからも続く修行を楽しんでいるようだ。

「このビジネスは、人情だけでなく知力、情報力、戦略構築力などの高いレベルの総合力が勝負です。そしてそこに私個人の人間力を加えることで、成果が出るのです。それは一年や二年で身につくものではありませんが、だからこそ鉄のプロフェッショナルとしての商売を行う醍醐味を味わえるんです」

熱延鋼板のデリバリー業務からスタートした坂野のステージは、インドネシアでの人間力を駆使したステージから、さらに高度な専門知識を求められるステージへ移り変わった。まだまだそのステージに見合った能力がないと謙遜する坂野。だが、すでに鉄鋼品種のプロフェッショナルとして世界中で鉄鋼ビジネスを仕掛けるべく、現在、虎視眈々と巨大エネルギープロジェクトの動向をうかがっている。

 

学生へのメッセージ

「NO PAINS NO GAINS! 挫折や失敗を経験せずして得るものはありません。簡単にできる仕事なら、あなたでなくてもできる仕事。そんな誰でもいいような仕事をやりたいのなら、商社業界には入らないほうがいいでしょう。日々の努力が血となり肉となり、さらに知識・情報を得て高度なビジネスを実践できるところまでたどり着くのが仕事の楽しみ。若いうちから裁量権を持ち、自分らしさを発揮できるところが、JFE商事の良さだと思います」

 

坂野 達也(ばんの・たつや)

【略歴】
1982年名古屋市生まれ。名古屋工業大学工学部卒。2006年入社。

 

『商社』2016年度版より転載。記事内容は2013年取材当時のもの。
取材・文:大坪サトル
撮影:葛西龍

 


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