帝人フロンティア 髙橋佳佑
自動車の内装生地の開発に
魂を込める
難しい仕事で大きく成長
この一件以来、より細心の注意をもって仕事に取り組むようになった髙橋は次々と大きな仕事を成功させていった。中でも2011年に担当した自動車のシート生地の開発案件は髙橋のキャリアの中でもターニングポイントになるだろう。
ある自動車メーカーのデザイナーが書いたシート生地の仕様書を見せられたとき、髙橋は思わず唸った。生地の構造が非常に複雑で、機械に大きな負担をかけるような編み方だったからだ。しかしダメ元で北陸3県にあるニッターをめぐったところ、取りあえずやってみようと受けてくれた工場もあった。その中でも設備的に最も充実しているニッターと手を組むことになった。
しかしここからがたいへんだった。糸や機械に負担をかける編み方に耐え切れず、何度やっても糸が切れ、編機の針すらも折れた。髙橋は金沢のニッターに泊まりこんで社長と一緒に試行錯誤を重ねた。しかし何度やっても針が折れる。そこでドイツのメーカーから特注のパーツを取り寄せ、編機に装着。ほとんどその生地専用に仕上がった機械でようやく生地を編むことができた。
「思わず社長とハイタッチしましたね。まずは第一関門突破だと」
しかし次の染色の工程でまた大きな壁が待っていた。複雑な染色指定だったためデザイナーの要求通りに糸が染まらなかったのだ。当然デザイナーの返答はNG。通常、試作品の作成に許された期間は10日ほどだが、この時点ですでに3か月が経過していた。試作品が遅れると、その後のすべての工程に狂いが生じる。ゆえに本来なら試作品提出の締め切りは絶対に動かない。しかしデザイナーはどうしてもこの生地じゃないとダメだと譲らなかった。そのこだわりでスケジュールそのものを変更した。
「正直に言うと、私たちは内心諦めていました。どう考えても間に合わない、無理だと。でも締め切りを過ぎても自動車メーカーからは試作品はいつになるんだという問い合わせが絶えませんでした。スケジュールを変更してまでこの生地を作りたいというのならとことんまで付きあおうと決心しました。工場長も同じ気持ちでした」
それから染色に最適な糸づくりからやり直し、愛知県の製糸工場に特注で作ってもらった。その糸で編んだ試作品の生地でようやくデザイナーのOKが出た。そしていよいよ最終関門。その生地でシートを作り、ファブリックメーカーの担当者と一緒に自動車メーカーにプレゼン。見た目や実際にシートに座ってみた感触など、自動車メーカー側の数多くの厳しいチェックにさらされた。結果が出るまでには数日かかる。その間、髙橋は気が気ではなかった。そしてある日、ファブリックメーカーから電話がかかってきた。自動車メーカーからの返答は「OK」。思わずデスクでガッツポーズをした。
これまで自動車メーカーからダメ出しを食らうたびに各工場の社長を招集して会議を開いた。納期が遅れるたびに顧客に頭を下げ続けた。自動車メーカー、ファブリックメーカー、工場をつなぐハブとなり、自分が休んだらすべてが止まってしまうという逃げられない状況の中で何か月も踏ん張り続けた。それがすべて報われたのだ。
「この電話は本当にうれしかったですね。それまでの苦労が全部吹き飛びました。ああ、こういう気持ちが味わえるなら次も頑張ろうと思えましたね。
確かにいろんな会社の板挟みになっていたので今から思えば精神的につらかったですが、当時はつらいと感じる暇すらありませんでした。何度もやり直しをしてもらった工場の方々の協力がなければ絶対にできませんでした。これまで開発から納品まで一貫して商品の流れに関わった経験がないことが、帝人フロンティアの営業マンとして最も欠けている大きなものだと思っていました。それだけに、ようやくこれで内装資材課の一人前の営業マンとしての第一歩を踏み出せたような気がしました。今後は海外駐在員として現地で暮らしながら、存分に腕をふるってみたいですね」
そう語る髙橋の目は自信と希望に満ち溢れていた。帝人フロンティアの未来は俺が作る。そう語っているようにも見えた。
学生へのメッセージ
「元々人と話すことが好きだったので営業を志望していました。それと文系でありながらもモノづくりに関わりたいという気持ちも強く、商社を志望しました。内定は数社取りましたが、硬軟さまざまなタイプの社員がいる点に惹かれ、当社に決めました。これだけいろんな人がいる会社なら、自分が活かされる場所が必ずあると確信できたからです。商社の営業マンに向いているのはとにかく明るく、ちゃんと目を見て話せる、そして自分ならではの強みを意識して使える人でしょうか。そして当社は若手にどんどん仕事を任せる社風なので、失敗を恐れず挑戦できる人が向いていると思います」
髙橋佳佑(たかはし・けいすけ)
1984年愛知県生まれ。南山大学経済学部卒。2008年入社。学生時代はバスケットボール、ダンス、学生起業サークルの主幹を兼任し精力的に活動。
『商社』2016年度版より転載。記事内容は2014年取材当時のもの。