商社の仕事人(19)その2

2017年05月16日

第一実業 柳澤保則

 

日本のエネルギー問題の

解決に尽力

 

 

国家プロジェクトでひと皮むける

転機が訪れたのは2010年。東京本社に異動となり、同年10月からプラント・エネルギー事業本部資源開発部へ配属となった。よりスケールの大きい仕事にかかわることができる。柳澤は胸の高まりを抑えることができなかった。

2013年、ついにそのでかい仕事が回ってきた。海底石油の掘削調査だ。言うまでもなく、資源の乏しい日本にとってエネルギー問題は近代以来の国家的な懸案事項だ。政府は国家プロジェクトとして資源調査を行ってきた。そのひとつとして、新潟県沖の海底深くに石油が埋蔵している可能性が浮上。その本格的な調査をグローバルに事業を展開する大手エネルギー開発会社が国から受諾。まずはその調査のための海底掘削機材の入札が行われた。この入札自体の金額も大きいが、この調査で石油の埋蔵が確認された場合、本格的な掘削、抽出、加工とさらにビジネスの規模は大きくなり、かかわる期間も長く、利益も大きくなる。だからこそ、この入札に負けるわけにはいかなかった。

しかし、入札を主催する側もそう簡単に情報を漏らすはずもない。入札金額を決めるため、海外の掘削機械メーカーの担当者たちを日本に呼び、朝から会議室で膝を突き合わせて入札額を検討。百科事典ほどの厚みのある入札書類を作成、隅々までチェックし、入札額を決めたときには日が暮れかけていた。その入札書類を大手エネルギー開発会社に直接持参し、入札。数日後見事落札の知らせが届いた。

「それはうれしかったですよ。何十億のビジネスに繋がる可能性がある案件でしたからね。金額に加え、当社の扱う掘削機械の実績も評価していただいた結果だったと思います」

落札からまもなく3か月間のプロジェクトが始まった。このプロジェクトで柳澤に与えられた役割は、大手エネルギー開発会社と海外機械メーカーの両者をつなぐ「ハブ」だ。両者の窓口役としてスケジュール管理や機械の手配に奔走した。ただでさえ天候に左右される海上での掘削作業。荒れることの多い日本海での作業は予定通りにはいかなかった。さらに目には見えない海底を掘削するプロジェクトは困難の連続だった。しかも海底掘削用の船のレンタル料は1日数千万円。作業が2、3日止まれば億単位の損失を出すことになる。緊張が続いた。

「想定外のトラブルが発生して、新たに掘削用の部品が必要となった場合は、海外からハンドキャリーで日本にすぐ部品を持ってこさせて、私の部下がそれを手で直接現場に運んだこともありました。日々プロジェクトの進行具合が変わるので、私もスタッフもほぼ24時間体制で臨んでいましたね」

開発会社の担当者は日本人だが、機械メーカーの担当者は外国人。開発会社の担当者からの問い合わせに対してその真意や技術的な背景をきちんと理解した上で英訳しメーカー側に伝えたり、逆にメーカー側のやりたいことや求める機械のスペックを正確に日本語にして開発会社に伝えなければならない。切迫したスケジュールの中で両者の間に入り、正確に任務を遂行することは容易なことではない。しかし、「これは入社以来、一貫して行っている作業です。業界は変わってもやってることは同じですからね」とここでも出向先での経験が生かされていたのである。柳澤の商社パーソン魂は、さらに大きくなっていた。

⇒〈その3〉へ続く

 


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