商社の仕事人(36)その2

2017年10月17日

ダイワボウ情報システム 服部将士

 

新しい切り口で

国内IT市場を開拓する

 

 

納期ミスの重大性を痛感する

営業スキルを磨き、商社マンとして確かな足跡を刻み続けたA社との2年間。ただし、すべてが順調だったわけではない。一度、足がすくんで動けなくなるほどの、とんでもないミスをしてしまったことがあるという。

「それは、A社と仕事を始めて8か月ほど経ったときのことです。官公庁関係の案件を取ることができました。しかも、1件で2000万円という、当時の私にとっては非常に大きなビジネスでした。思わずガッツポーズを取るほど嬉しかったんですが、有頂天になった私は、その後に控えていた大切な確認作業を怠ってしまったんです」

起きたのは、納期トラブルだった。案件を受注した段階で、納品の時期も決まっていた。メーカー側の在庫状況も、正しく把握できていた。しかし、それだけでは膨大な数の品物は動かない。いつまでに注文書をもらえば、無理なく発注ができて、流通に乗せられ、納期が正しく守られるのか。詳細なタイムスケジュールを把握して指示を出すのが、服部の役目だったのだ。

「そのすべてが後手に回り、注文書が届くのが遅れ、その催促が遅れ、発注のタイミングがずれ、少しずつの遅れが合わさって納期に間に合わないという事態を招いてしまいました。案件を取れたことが、ゴールではなかった。そのことに気付けなかったんです」

折しも、年度末の時期だった。先輩社員からは、物流が混乱を来すことが考えられるため、納期トラブルに注意せよという指導はされていた。それでも、服部は見落としをしてしまった。しかも、取り引きの相手は官公庁である。すべてにおいて条件が厳しく、とくに納期が遅れるなどということは絶対に許されない。最悪の場合、A社が出入り禁止となるペナルティも考えられたのだ。

「もともとA社は官公庁の仕事を得意分野としていたこともあり、とんでもない騒ぎになってしまいました。A社の営業担当の方は50代のベテランで、それまで私も勉強させてもらいながら関係を構築してきたのに、当然ながらこの件で大激怒されてしまって。私の所属していた部の責任者も出向いてお詫びし、私ではどうすることもできない事態になりました。正直、逃げ出したい気持ちになったのは事実です。しかし、同時に絶対逃げてはいけないとも思ったことを覚えています」

通常の場合、DISではお客様1社に対して営業社員1名で対応している。しかし、この時ばかりは先輩社員2名が応援に駆けつけた。また、通常便では間に合わないため、チャーター便を使って、とにかく超特急で品物を納品した。当然、納期ギリギリの納品だったため、服部と先輩社員の3名で、各フロアに品物を運んで回る必要があった。物流費だけでかなりの追加経費がかかり、さらに先輩社員の人件費を考えれば、2000万円の案件とはいえ利益などないに等しかったかもしれない。

「昼過ぎまでに納品を終えて、先輩たちにはお詫びとして昼食を奢らせてもらいました。情けないやら申し訳ないやらで落ち込む私を、先輩たちは〝同じことを二度繰り返さなければいいんだよ〟〝目の前のひとつひとつのことをやっていくしかないよ〟と、励ましてくれました。大きな借りができてしまったと思いました」

結果的には納期に間に合わせた形となり、A社ともその後の関係は続いた。ミスがあったのは事実だが、できる限りの対応をした服部を、A社の営業担当者も認めてくれたのだろう。次にも大きな仕事を任せてくれ、2年後に服部が担当を代わる際には、送別会まで開いてくれたそうだ。

「商社の仕事では、大きなお金が動きます。そして、多くの人、複数の会社との間に立つことで、責任も非常に重いものになります。分かっていたつもりでしたが、この件で骨身に染みました。以降、どんな些細なやりとりも絶対に軽く見ずに、徹底したスケジュール管理や情報確認の癖が付いたように感じます」

⇒〈その3〉へ続く

 


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