商社の仕事人(36)その3

2017年10月18日

ダイワボウ情報システム 服部将士

 

新しい切り口で

国内IT市場を開拓する

 

 

ネットワークカメラの新規ビジネスを開拓

苦い経験をすることで、萎縮し、逃げだし、成長が止まる人もいる。一方で、その経験を糧にし、一回りも二回りも成長できる人もいる。服部は当然、後者だった。A社の担当を売上げ増の形で部下に引き継ぎ、次に手がけたのは、見込み顧客の開拓という業務だった。

「新規の企業や、かつては取引があったが現在ではゼロになってしまった企業に対して、新しい切り口で営業をかける仕事です。最初はどうすれば上手く回り出すのか見当も付きませんでしたが、情報収集と提案業務を地道に行っていくうち、化学や情報電子に強いB社と巡り会いました。とても勢いのある会社で、何かビジネスを作れないかと何度も営業をかけているうち、先方がネットワークカメラをやりたいとおっしゃったんです。今でこそ、店舗や街の中など至るところに監視カメラがありますが、当時はネットワークカメラが増えている時期でした。アナログカメラのレンズ等も扱っていたB社は、ぜひ新規事業としてネットワークカメラを取り入れたいと、私に声をかけてくれたんです」

ネットワークカメラとは、カメラ自体がIPアドレスを持っており、ネットワークを通じて画像が転送されるため、遠隔地からでも内容を確認できるもの。防犯目的の監視カメラなどとして、広く利用されている。しかし、当時のネットワークカメラは、大手のP社が独占状態にあったため、B社は別のメーカーを望んだという。

「そこで私は、日本ではほとんど扱いがなく、法人も小規模で、しかしヨーロッパでは売上げナンバーワンというS社を見つけ出し、B社と結びつけることにしました。S社はカメラ自体の質は抜群だったため、あとは価格や書類上の調整が済めば良いだけでした。ただし、物流が整っていない点が致命的で、その構築に1年は費やすことになりました」

すでにあった顧客を引き継ぐのとは、わけが違う。見込み客の〝開拓〟とは、すなわちゼロからのスタートだ。ゼロとは、売上げがゼロという意味でもある。見込み客が取引相手として動き出すまで、営業としての数字はゼロ。服部の売上げはなしということになる。

「1年という期間、当たり前ですが1円も売り上げが出ないのです。上司には、〝いつ売れるんだ?〟と、プレッシャーをかけられていました。営業には訪問履歴などの提出書類があり、上司は当然、これに目を通します。〝ずいぶん頻繁にB社に行っているな。見込みがあるのか?〟と、何度訊かれたことか。それでも私は、非常に成長していた市場だったため、売れたら大きなビジネスになると感じていました。上司の追撃をかいくぐりつつ、耐える日々でしたね(笑)」

服部も、確信というほどの強い思いがあったわけではなかったと言う。しかし、まだ分からない。分からないから、諦めたくない。そんな一心で、先が見えない暗闇の中、ひとつひとつの障害をクリアしていった。ようやく流通などの目処が立ち、服部がB社とS社を結びつけて1年、ついにネットワークカメラの販売が決定した。

「ゼロだった取り引きが、その後1年で、1億円ほどの売上げを達成しました。S社はそれまで、日本だけでなくアジアのどこの国でも販売網が確立していませんでした。それが、突然この数字を上げた。S社の日本法人の営業担当者からは、〝日本どころかアジアナンバーワンの営業マンになれたよ!〟と、大変感謝されました。DISとしても、B社との取り引きが開始され、見込み客の開拓はミッション達成です。ネットワークカメラというアイテムも、それまでDISでは扱っていませんでした。今では、全社としての重点ビジネスのカテゴリーに入っています。最近も、1件で1億円ほどの大きな案件が取れました。一方で、市場規模自体が拡大しており、今後もさらなる発展が見込める分、競合も多くなっているのが現状です。しかし、私が開拓して育て上げたという自負がありますから、最前線で戦っているような気持ちを込めながら、誇りを持って、負けない営業活動を行っていきたいですね」

⇒〈その4〉へ続く

 


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