蝶理 松下友和
バングラデシュでのモノ作りに
熱い思いを燃やす
生産国から消費国になる中国での新たな市場開拓
松下は、バングラデシュでのモノ作りを考えた時から、中国での市場開拓も視野に入れていた。数年前に一度、実際にチャレンジしたこともあったが、どうしてもコスト面で中国のローカル企業には太刀打ちできず、成果を上げることが出来なかった。しかし、バングラデシュで低コストのモノ作りを実現した今、状況は明らかに変化して来ていた。
「現地の企業との差別化を図れる技術を持った素材メーカーや、企画力を持ったアパレルメーカーですら、中国では思い通りのビジネスは展開できていないのに、差別化の武器を何も持たない私たちが太刀打ちできるはずもなかったのです。しかし、最大の難関であったコストの壁が、バングラデシュから商品を供給することによって突破することができる可能性が出てきました。というのは、バングラデシュから中国へ輸入する縫製品については関税が掛からないので、価格面でも現地の企業とガチンコ勝負ができるようになって来ているからです」
つまり、何も武器を持っていなかった松下は、バングラデシュで低コストでモノ作りができる体制を作り上げたことによって、何物よりも強力な武器を手に入れることが出来たのである。その一方で、中国の縫製業にも大きな変化が訪れていた。中国の縫製工場が沿岸部から内陸部へと移っていることは既述の通りだが、それは縫製業を担うべき労働力の確保が難しくなって来ていることを示唆する。松下は、その先の推移を次のように予測する。
「いずれ中国は、縫製品の〝生産国〟から〝消費国〟になることは目に見えています。日本の例を見ても分かる通り、消費国になるとやがては輸入に頼らなければいけなくなります。ましてやあの人口です。そういう時代が近い将来、中国にも必ず訪れます。中国から衣料品を輸入している私たちが、すでに品物がなくて困っているくらいですから、中国ではもう内需を賄えるだけの生産量がなくなっているのが現状です。遠くない将来、中国は必然的に輸入国にならざるを得ないし、そうなった場合、私たちはバングラデシュの拠点を活用して中国に販売することが出来るようになります」
松下は自信を持ってこう語る。
「私たちは今まで日本向けの商売をして来たので、日本のスペックに合うものを作れる技術力を、苦労しながらも培って来ました。日本の技術力は高いですから、それは中国でも確実に売れるはずですし、今まで中国に買いに来ていたアジアやヨーロッパ、アメリカの人たちも何処かに買いに行かなければなりませんから、そういう人たちにも売れるはずです。日本国内の今のマーケットを見たら、状況はもっと悪くなるでしょう。日本を向いた商売だけではバングラデシュとの商売は絶対に大きくならないので、特に中国を筆頭としたアジア諸国には積極的に売って行かないといけないと考えています。そのチャンスが今まさにやって来ているのです」
現に、松下は中国の企業と組み、華人(華僑)のネットワークを活用して中国・香港・台湾・シンガポール・マレーシアにバングラデシュ製のTシャツを主とした商品の販売に邁進している。また、中国に対しても余念がない。急速に発達しているインターネットを活用して、Tシャツ販売専門サイトを立ち上げるべくシステムを構築中でもある。さらに、そのサイトを活用して、日本企業の中国内販支援サービスや、アニメなどの日本の優良なコンテンツを発信する新たな事業を実現したい、と松下は言う。
「中国では、日本のアニメのキャラクターをプリントしたTシャツなどが売られていますが、ほとんどが偽物です。しかし、中国が世界で一流の国だと認められるようになれれば、きっと本物が求められるようになりますから、その〝本物〟を中国に売って行きたいと思っています」
松下はあくまでも意欲満々である。
⇒〈その5〉へ続く