日立ハイテクノロジーズ 黄世勇
ビジネスの厳しさを
知った経験を糧に、
更なる成長を目指す
チームワークの力に励まされて立ち直る
100%受注できると確信していた数十億円のビジネスが、まるで指の間から水が漏れるように空しく消えてしまった。黄は、担当者として何らかの形で責任は取らなければならないだろうと覚悟はしていた。しかし、上司からは報告や反省を求められはしたが、最終的に大きな責任が及ぶことはなかった。
「奈落の底へ突き落されたような感じだった」と黄は言う。敗北感から抜け出すことができない。頭の中では、入札で負けたシーンが繰り返し繰り返し巡ってくる。はっとして、早く振り切らなければと思うが、気が付くとまた考え込んでいるのだ。
そんな黄を救ってくれたのが上司だった。
「黄君、いつまで北京のことを引きずっているんだ。みんなでやった結果だろう。誰も君ひとりの責任だなんて思っていないよ。もっとチームを信頼しろよ。今までもみんなで頑張ってきたじゃないか。また一緒に頑張ろう」
こう何度も声をかけてくれた。
「本当なら、立場上、上司が一番苦しんでいたはずです。ところが、そんな様子は一切見せず、みんなが一緒になって前に進んで行くためにはどうしたらいいのかを、本当にスタッフの立場に立って考えてくれました。そういう上司の姿勢を見て、初めて自分は一人で戦っているんじゃない、みんなと一緒に戦っているんだ、ということに気付かされました。チームワークがあるからこそ、自信を持ってビジネスを展開していけるのです。だから、何か困難な場面に遭遇しても、自分はチームの一員なんだと思うと、非常に大きなパワーをもらえるんです。中国では、ひとりでの戦いが基本ですから、うまく行っている時はいいけれど、うまく行かない時には挫折感が非常に大きくなるんです。その点でも、日立ハイテクのようなチームワーク重視のやり方は、とても素晴らしいと思います」
黄は、上司の言葉通り、チームワークによって自らのモチベーションを高め、少しずつ落ち込んだ心を立て直すことができた。その後、日本へ戻るまでの2年間、競合相手に一度も負けることはなかった。
「大きな失敗を経験すると、失敗した時にどれだけ悔しい思いをさせられるかが分かり、もう二度と失敗はしたくないと思います。そういう思いがあれば、新しい案件に取り組む時でも、自然と全力投球しなきゃという気持ちになるんです」
大きな敗北は、間違いなく黄を一回りも二回りも大きく成長させたのである。
⇒〈その3〉へ続く