商社の仕事人(45)その1

2018年02月12日

岩谷産業 齋藤良輔

 

新しいエネルギー市場を視野に

ポリシーを持って全力投球

 

 

【略歴】
齋藤良輔(さいとう・りょうすけ)
1981年、大阪府生まれ。関西学院大学経済学部卒。2004年入社。

 

伝統の強みを総動員して顧客の決定をひっくり返した中国ビジネス

2010年、近畿支社大阪支店の齋藤良輔の下に1本の電話がかかってきた。

「齋藤さん、申し訳ないが今回の案件は岩谷産業さんじゃないところにお願いすることになりそうだ」

相手は先輩から担当を引き継いだ顧客。自動車部品の受託加工を行うメーカーの専務だ。同社は岩谷産業と密接なつながりを持ち、入社6年目の齋藤にとって極めて重要な顧客の1つだった。

問題となった案件は、中国進出事業。同社が中国に工場を建設するにあたって、齋藤は産業用ガスの供給及び関連機械の納入を手がけていた。

「その顧客は以前にタイ進出を大成功させた実績があり、中国進出は当社として絶対に落とせない案件でした。電話を受け取った時は、血の気が引きましたよ」と齋藤は振り返る。

「ガス&エネルギー」をコンセプトに、LPガスを始めとするさまざまなガスを扱う岩谷産業。齋藤が所属していた産業ガス・機械課は、工業用ガスと関連機器や設備を扱う。あらゆる工業生産には何らかのガスが不可欠であり、メーカーが海外進出する際もガスと機械を供給するパートナーが必要だ。

「その専務とは、従来から親しくお付き合いさせてもらっていました。中国進出にあたっても、私が当社の現地法人と顧客の橋渡しをする形でコーディネートしていたんです。私も中国に足を運びながら、現地法人に全部門のスペシャリストを総動員するよう依頼し、最初から他社が入る隙のない完璧な形での受注を目指して進めていました。そのため当初は順調に流れていると思っていたのですが…」

別の会社へ切り替える決断をしたのは、それまで岩谷産業と接点がなかった現地責任者。中国事情に精通していることから、このプロジェクトのため外部からヘッドハントされた日本人ビジネスマンだ。大阪支店を拠点に国内で仲立ちしていた齋藤にとって、思いがけない「奇襲」だった。

「理由はまず価格、それと現地の対応への不満でした。こちらは適切なスピードで業務にあたっているという認識でしたが、ローカルスタッフの対応などが行き違いの元になっていたのでしょう」

専務の齋藤に対する信頼は根強かったが、現地を任せた責任者の決定をトップダウンでくつがえすことはできない。齋藤は失地回復のため食い下がったものの、突破口は開けなかった。

「価格で勝負しても、現地責任者の信頼は得られないと思いました。そこで、とにかくどんなことでも何か当社にお手伝いできることはないかと、専務にそう提案したんです。すると現地での会社設立の手続き、行政当局とのやり取りなどが難航していることを教えてくれました」

岩谷産業は中国ですでに40年近い事業実績があり、現地での折衝や法務処理は得意とするところだ。

「顧客が直面している課題が、当社が経験を重ねクリアしてきた法務処理でした。これならいける、もう一度ステージに立てる。そう確信してプランを練り、中国での交渉や法務に強い社内のスペシャリストと一緒にその現地責任者に会いに行ったんです。交渉の末、その方が直面していた問題を当社がフォローできる形になりました。そして最終的に、ガス、機械に関しても岩谷産業が再びパートナーとして返り咲いたんです」

最重要案件を失うというピンチを、土壇場でひっくり返した齋藤。現地責任者との信頼関係が構築できた後、彼は本人からこの交渉に対する感想を聞いた。

「最初の面談から交渉や法務のスペシャリストを連れていったことが、評価してもらえたそうです。じゃあ何をどうすればいいか、その場ですぐに具体的な話を進めることができたと。このスピードとスムーズさが先方の求めていた対応だったのでしょう」

⇒〈その2〉へ続く

 


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