商社の仕事人(45)その4

2018年02月15日

岩谷産業 齋藤良輔

 

新しいエネルギー市場を視野に

ポリシーを持って全力投球

 

 

軸をぶらさずポリシーを持って取り組む

希望が叶って、齋藤には既存の顧客が任されることになった。その数は、一気に30社。それまで以上に慌ただしい日々が始まった。

「私がいた部署では酸素、窒素、アルゴンなど、工業生産に使うあらゆるガスと、それに付随する機械を扱っています。定期的な納入の管理はもちろん、顧客のニーズを事前に察知してあらゆる提案をしていくというのが主な仕事です」

また価格改定の交渉も、齋藤にとって大きな仕事の1つ。当初は価格だけで他社に流れてしまうこともあったが、幅広い交渉と密接な人間関係作りで克服していった。

しかしそんな齋藤にも、1人だけ歯が立たない相手がいた。

「その方は、業界でも知られたベテランの優秀な購買マン。入社3年目の私が敵う相手ではありませんでした。どれだけ値上げの根拠を説明しても、手もなく論破されてしまうんです」

水素ガスの値上げを巡ってはどれだけ交渉しても主張が全く折り合わず、納入元を替えるという話にまで発展してしまう。万策尽きた齋藤は上司に相談し、面談に同行してもらうことになった。

「もちろん先方も一方的に主張を伝えるだけではありません。その場では価格を据え置く代わりに、新しいビジネスを当社に優先的に発注するという交換条件を提示してきました」

諦めかけていた齋藤にとって、これは願ってもない話だ。見込みのない値上げ交渉が終わるし、結果的にそれまで以上の数字を上げることができる。だが同席した上司の回答は、彼の予想に反した。

「ありがたいお話ですが、誠意を持ってこれまで通り価格改定の交渉をさせていただきます」と断ってしまったんです。

交渉が決裂した面談の帰り道、断った理由を尋ねた齋藤に上司はこう答えた。

「あの条件を飲めば、お前に負けぐせがつく。おいしい話に飛びつくのでなく、軸をぶらさず最後までポリシーを持ってやれ。でないとお前のためにならない、それが断った理由だ」

齋藤は「先方の条件を喜んだ自分が恥ずかしくなりました」と振り返る。もちろん、だからといってその商権を失うことは絶対に許されない。別の案件で訪問するたびに、齋藤は1人で粘り強く交渉を続けた。ようやく先方が応じてくれたのは、交渉開始から1年ほど経ってからのことだ。

「もちろん満額ではありませんが、こちらが想定したライン、自分の中の軸はぶらさず交渉することができました。私にとってはそれで数字が上がったことより、ぶれずにポリシーを持って粘り強く交渉することを学べたのが一番の収穫でしたね」

⇒〈その5〉へ続く

 


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