商社の仕事人(51)その1

2018年04月9日

JFE商事 小黒善之

 

企業をつなげて

自動車大国・インドの成長を

支える

 

【略歴】
小黒善之(おぐろ・よしゆき)
1984年東京都生まれ。中央大学文学部卒。2007年JFE商事に入社。

 

急成長するインドの自動車産業

東京からおよそ6000キロ、デリー国際空港で迎えてくれたのは、8時間半前までいた日本とは明らかに違う、乾燥して埃っぽい空気だった。そして到着ロビーにあふれかえる人、人、人……。小黒は初めて訪れたここインドで、まずその人の数に圧倒された。

しかし、空港から目的地であるハリヤナ州グルガオンに向かう車中から見た光景の衝撃はそれ以上だった。街はどこも人でごった返し、家がない人々は空き地のいたるところに張ってあるテントで生活している。あふれているのは人だけではない。道路には車やリキシャー(三輪タクシー)、手押し車があふれ、クラクションがけたたましく鳴り響いている。おまけに牛もいる。小黒は日本とあまりにもかけ離れた光景が延々と続くことに驚きながらも、これからこの地で仕事をするんだという期待に胸を踊らせていた。

 

ここ数年、インドは中国と並んで国際経済を牽引する新興国として大躍進している。その経済成長にはすさまじい勢いがあり、経済成長率は中国に次ぐ水準で、高成長を続けている。

「やはり活気が違うな」

JFE商事に入社して2年、日本では初夏を迎え穏やかな気候だが、ここデリーは40℃を越えている。しかし、この熱気は気候のせいばかりではないだろう。明るい話題が少ない日本と比べると、街全体が勢いづいているのがわかる。小黒は身体中にやる気がみなぎってくるのを感じながら、車窓に流れる光景を見つめ続けていた。

デリーから30分ほど走った頃、前方に巨大な建物群が現れた。担当している日系自動車メーカーの生産工場である。インドの自動車業界では、この日系企業をはじめ、現地企業、韓国系企業など、国内外のいくつものメーカーがしのぎを削っている。インドの自動車生産台数は、1983年頃は10万台ほどだったものが、1990年代に入って急増し、2009年には263万台と世界第7位の自動車大国になっているのだ。しかもこの数字は今後さらに伸び続けるはずだ。何しろインドの人口は現在12億人。中国に次いで世界第2位だが、近い将来には世界一に躍り出るといわれている。経済成長に伴って自動車を購入する中間層や富裕層がますます増加することから、自動車の生産台数は5年後には500万台近くにも上ると予測されている。つまり、拡大することが確実な巨大市場なのである。それだけに自動車メーカーのシェア争いも熾烈だ。3年目の小黒はその最前線に放り込まれたのである。世界を股にかけて活躍する商社マン。憧れだったその姿に一歩近づいた――。巨大な工場を見上げながら、思わず拳に力が入る小黒だった。

⇒〈その2〉へ続く

 


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