JFE商事 小黒善之
企業をつなげて
自動車大国・インドの成長を
支える
鉄の世界に魅せられて
かつて小黒は英語の教師になるつもりだった。だから教育学科に進学したのだが、大学3年の夏に、語学の勉強のつもりでアメリカのロサンゼルスに短期留学したことで転機が訪れた。小黒にとって初めての外国であり、様々な人種の人たちと交流したのも初めて。この体験は小黒の心に野心を芽生えさせた。
「世界には自分の知らないことがたくさんあるんだな」
その芽が大きな葉に育ったのは、休日にグランドキャニオンを訪れた時だった。数千万年という歳月が造り上げた、人智を越える光景を前に小黒は言葉を失い、雄大といっては余りある大自然の力に包まれながらこう思った。
「世界は広い。このまま教師になったら、自分は日本という小さな世界しか知らないままになってしまうのではないか。もっと広い世界に出て、いろいろなことを知りたい」
まだ学生で、それこそ社会のことをよく知らなかった小黒にとって、世界に出る仕事というのは商社の仕事しか思い浮かばなかった。「商社マンになろう」という決意を胸に帰国した小黒は、さっそく就職活動を始めた。しかし、商社といっても扱う製品は多岐にわたる。
「自分は何を手がけたいんだろうか。できればボリュームのある仕事がいい。そうだ、鉄だ!」
小黒は小学生の時に社会科見学で訪れた製鉄所のことを思い出していた。高炉でどろどろに溶かされた真っ赤な鉄。それが板状になり、赤く光りながらラインを流れていく。それが最後には薄い鉄板となり、巨大なコイルに巻かれる。どの製造工程を見てもワクワクし、いつまでも眺めていたかった。小黒にとって鉄は重く暗いものではなく、熱く力強いものだったのだ。小黒が鉄を扱う仕事に就くことは、すでにこの時に決まっていたのかもしれない。
⇒〈その3〉へ続く