商社の仕事人(51)その5

2018年04月13日

JFE商事 小黒善之

 

企業をつなげて

自動車大国・インドの成長を

支える

 

情報は必ず確認し、信念を持って伝える

当初、小黒はこの〝つなげる〟という仕事を軽く見ていた。その難しさを理解したのは何度も失敗を重ねてからのことだ。1年目で担当していたタイで、小黒が接してきたのは気心が知れている日本人スタッフだけ。日本人同士、相手の言いたい事は何となく推し量ることができていた。しかし、今の相手は人種も文化も違うインド人である。タイからインドに担当が替わった2年目の初め、現地スタッフであるインド人から聞いた情報をそのままJFEスチールの担当者に伝えたところ、その情報がまったくのでたらめだったということもある。

「なんでそんな間違った情報を先方に伝えたんだ?」

上司からとがめられ、小黒は正直に答えた。

「スタッフがそう言ったからです」

「馬鹿野郎! それじゃお前の存在意義は何なんだ? 右から左にそのまま伝えるだけなら子どもにだってできるぞ」

こっぴどく叱られた。確かに、もし誤った情報をJFEスチールに伝え、それをもとに鋼材が生産されればたいへんな問題に発展しかねない。会社に多大な損害を与えることになる。これまで先輩たちが必死で築いてきた信頼関係も一気に瓦解するだろう。

以後、小黒はどんなに小さな情報でも1つひとつ確認するという基本的な作業を欠かさないようにした。まず、その情報について自分なりに吟味し、その後、事細かく確認をする。インドではコミュニケーションは英語で行われるが、英語ではミスコミュニケーションも少なくない。だからこそ、誤解を避けるために大事なやりとりは言葉だけでなくメールで最終確認を取るようにした。文字にしておけばそれだけミスは減る。小黒は信念を持って確かだといえる状態にしてから相手に伝えるようにした。今では「小黒のいうことなら確実だ」と周囲から認められるまでになった。

入社する前、小黒が商社マンに抱いていたのは世界を飛び回り、次々と商談をまとめていく華々しいイメージだった。だがそれは実像とは違った。もちろん、海外への出張はたびたびある。しかし、実際の業務の多くはデスクワークだ。社内にいて細かな確認作業や間違いのない書類作りをしていることが多い。入社当初はこのギャップにとまどったが、今ではそれがどれだけ大切なことなのかがわかる。どんな仕事も華やかさはほんの一部。地味な部分があるからこそ、光の当たる部分がより輝くのだ。

現に、こうした基本作業を大切にし、ミスのない仕事を続けていることで、JFE商事は、2009年に担当の日系自動車メーカーから鉄鋼サプライヤー6社の中から1位に送られるスチールサプライヤー賞を授与し、2010年には120社もある全サプライヤーの中から1位に送られるベストサプライヤー賞の授与を達成した。インドの自動車産業で圧倒的な存在感を放つ同社に認められることは世界に認められるということでもある。誇らしく思うとともに、インドの自動車産業の一翼を支えているという責任の重さをずしりと感じる小黒だった。

入社して5年目が過ぎた現在。仕事の幅は広がる一方だ。しかし、小黒は仕事に対してますます貪欲になっている。

「既存の商権だけではこの先生き残ることはできない。将来は駐在をして、新しい販路をどんどん開拓したい。自動車だけじゃなく、インフラも手がけてみたい」

発展するアジアのまっただ中で、小黒の目も灼熱のアジア市場とともに燃え続ける。

 

学生へのメッセージ

「私が就職活動で心がけたのは、とにかく人に会うということでした。OBやOGがいない時は、セミナーなどに行った際に人事の方にお願いして社員を紹介していただいたりもしました。もちろん、断られることもありました。でも諦めず、商社の人だけでも20人は会いましたね。やはり、本やネットなどの情報だけでは本当の姿というのはなかなかわからない。実際にその会社で働き、自分がしたいと思っている仕事をしている人から直接話を聞くことで見えてくるものがあります。イメージだけで判断しないためにも、皆さんもたくさんの人に会うことを心がけてください」

 

小黒善之(おぐろ・よしゆき)

1984年東京都生まれ。中央大学文学部卒。2007年JFE商事に入社。取材時、自動車鋼材部第一自動車鋼材貿易室に所属。

 

『商社』2013年度版より転載。記事内容は2011年取材当時のもの。
写真:葛西龍

 


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