商社の仕事人(1)その4

2019年04月8日

三井物産 田中理帆

 

子どもたちの未来を支える

「良い仕事」を目指して

 

 

「良い仕事」の本質

三井物産の商社パーソンとして、入社1年で大きく成長した田中は、2年目に都市開発事業部へ異動となった。というのも、田中が入社した当時、新入社員は教育配属としてまずは1年ないし2年間、コーポレート部門や物流業務を担う営業部署に配属され、2年目以降に本配属となる部署に配属されることになっていたからである。1年目に物流業務を経験した田中の場合、本配属は今まで未経験の投資業務を中心とする都市開発事業部だった。都市開発事業部の業務内容は、大手スーパーチェーンと組んで大型ショッピングセンターを作ったり、土地を購入してビルを建ててリースしたり。また、時にはショッピングセンターからマンション、市役所、高齢者専用住宅などを含めた複合的な都市開発まで行ったという。

「とにかく金額が大きくて驚きました。食品原料を扱っていたときは毎月100万儲けますと言っていたのが、都市開発では1年かけて100億円。商社って本当にいろいろなことをやっているなと思いました」

都市開発事業部でも順調に業績を上げていた田中。だが、そんな田中に自分の足元を今一度見つめなおさなければならない出来事が起こった。大型ショッピングセンター出店予定先の市会議員から呼び出され、先輩社員とともに訪ねてみると、なんとその場に地元商店街の人たちが集まっていたのだ。

「いったい何をしてくれるんだ!」

みんなが必死の形相で田中たちに詰め寄る。その勢いに思わず、田中たちはたじたじとなった。

「自分の仕事がいい面だけではない。一部の人には明らかにマイナスになる場合もある。それが分かっていて進める仕事の意味とは何だろう…」

田中は悩んだ。新たなビジネスが生み出されるとき、その周辺にある既存のビジネスが失われることがある。ショッピングセンター出店による商圏争いもそうだが、入社1年目に行った取引先の倉庫の移転、上海へのシュークリームチェーンの出店もどこかで誰かが割を食っているのかもしれない。だが、商社は新たなビジネスを創り出すのが仕事だ。また、たとえ田中がやらなくても他の誰かがそのビジネスを立ち上げるかもしれない。

「自分が決定権を持った担当者であればこそ、自分の力で問題の解決を図ることができるはずです。全員を幸せにすることはできないかもしれませんが、問題を放置したり力で抑え込んだりすることはありません。自分でアクションを起こした責任は、常に自分で負っていかないといけないと肝に銘じました」

三井物産は「良い仕事」の創出を標榜している。「良い仕事」とは目先の利益を求めることではなく、新たな価値、新たな事業を創造することで、社会の抱える問題を解決し、その結果として利益を得ようというものである。そのためには、企業としての視点だけでなく、社会や関係する当事者の視点を持ち、双方が納得のいくものでなければならない。そして社員一人ひとりが自分のやろうとしている仕事が家族や社会に誇れるものかどうかを自分で判断していく。それはとても厳しい仕事だ。だが、そういった「良い仕事」を目指しているからこそ、三井物産で働く人間は磨かれていく。田中は現実のビジネスシーンにおいて、自分自身にとっての「良い仕事」を問われた。そしてその本質に触れることで、三井物産の社員として、またひとつ成長することになったのである。

⇒〈その5〉へ続く

 


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