阪和興業 ウエンセスラオ・マンザノ
海外の非金属リサイクルビジネス
を狙うメキシコ人
メキシコ人のビギナーズラック!
当時、まだ阪和興業はメキシコで営業展開をする海外拠点がなく、非鉄金属第四課はこれといった取引先を持っていなかった。うまくいくかどうかは分からないが、とりあえずラオは銅、アルミ、鉛などのリサイクル原料を供給する会社と鉱山会社を何件か回った。
「まずみんな、なんで日本の会社で働いているの? とびっくりしました。日本の会社から人が来たこともなかったので興味津々で、日本ではこんなふうにしていると聞いたけど本当なのかとか、いろんな質問が次々と飛んできました。メキシコ人同士で聞きやすかったのかもしれません。自分の国で、母国語で新規開拓ができたのはラッキーでした」
会社には経過報告をしなければならないので、ほぼ毎日日本に電話をかけた。「感触がよくて、なんかうまくいきそうです」
こういうラオの話を聞くと、上司は電話の向こうで「本当か!」と驚いていた。やはり里帰りの旅費を出す口実に仕事をしろと言ってはみたものの、成果は期待していなかったのかもしれない。
日本に戻ってからもそのうちの一社とたびたび電話で交渉を繰り返し、最初に訪問してから二か月後にまたメキシコに行くことになった。今度は上司と二人で正式に契約をするためである。その会社からは定期的に銅のスクラップを日本に輸入し、それを地金に加工するメーカーに販売する体制を確立した。取引額はその後数億円単位にまで増え、今では阪和興業のメキシコにおける非鉄金属部門の最大規模のパートナーになっている。
「最初に行ったときはゼロからのスタートでしたから、もちろんここまで関係が発展するとは全く思っていませんでした」
これを起点に、さらにホンジュラス、ブラジル、チリへと南下しながら取引先が増えていった。メキシコから始まった中南米の非鉄金属リサイクル事業は、ラオが開拓したといっても過言ではない。
地球の裏側からの発注で昼夜逆転
非鉄金属の原料は、国際的な相場で価格が決まる。グローバル化が進むと一物一価といって世界中どこでも同じ相場価格になり、多くの資源国は遠く離れた日本まで高い輸送費をかけて輸出するメリットを感じなくなってしまった。 「そうなると相場価格だけの話ではなく、どこかで付加価値をつけないといけません。海運費や倉庫料を安くできるところを探すのはもちろん、先物取引などでリスクヘッジをしてメリットを生み出す方法を考えねばなりません。リスクヘッジは複雑な金融取引になり、その内容を理解してきちんと相手に説明する必要もあります。それぞれの相手の条件に合った一番メリットがある方法を提供することで、ようやく取引してもらえます」
困ったのは、入社して三か月目で海外に行き、その後日を置かずに契約をするという慌ただしさの中で、非鉄金属業界の基礎知識を収得する時間がなかなかできないことだった。業界や商品の常識を知らないままでいると、客から相手にされなくなってくる。
「だから一年目は大変でした。でもおかげで、忙しくても大変と思わないようになったのかもしれません。最初が厳しかったのはかえってよかったと、今では思っています」
それでも南米の取引が増えていくと、昼夜が逆転する。相手が値決めをしたいと思ったときに地球の反対側から電話がかかってくる。その電話にすぐ出て決済しなければ仕事にならない。自ずと深夜から早朝にかけて業務が集中する。 「結局、二十四時間仕事することになります。このままでは寝不足になるから、フレックスタイムにしてくださいと上司に相談したら、その日のうちに職場で導入することが決まりました。入社する前は、日本の会社に入って大丈夫かなと心配でした。実際はみんなすごいフレンドリーで、やりたいことをやっていいよと言ってくれました。その通りに遠慮なく仕事に取り組めるし、こちらから何か言えば応えてくれる。もちろん阪和興業しか知らないのですが、恵まれた環境だと思います」
⇒〈その3〉へ続く