商社の仕事人(61)その3

2018年08月8日

日立ハイテクノロジーズ 相内尋也

 

日本の携帯電話の

アメリカ市場への普及に全力投球

 

 

落とし所を探しながらの、納入先との交渉に四苦八苦

「予定通りに発売できなければ、通信会社は、それだけ販売機会を失ってしまうことになる。何とかしなければ……」

相内は、渡米後初めて全身の血が引くような思いに襲われた。元々、チップメーカーのソフト開発が遅れ気味だったことに加え、仕様変更も重なり、スケジュールに大幅な遅れが出たのである。すぐに手を打たなければ致命的な問題になりかねない。相内は、即座に気を取り直して、対策に奔走し始めた。

相内の行動は早かった。納入先や仕入先のトップクラスの人にお願いしたりするなど、あの手この手を使って、チップメーカーに開発のスピードを上げてもらうように促した。また、納入する前に全ての不具合を見つけて、それもすべて直しておかなければならない。このスピードも上げるように要請した。

「もしも納入先で不具合が見つかると、こんな中途半端なものを納品してくる会社とは、今後取引きはしないという話にもなりかねません。できる限り早く直してくれ、と何度も仕入れ先に働きかけたのですが、なかなか思うようには進みませんでした」

不具合のある製品は出せないが、不具合を完全に直すためにはもっと時間が必要だ。しかし、発売時期は決まっているから、それには間に合わせなければならない。こうなったら、もう通信会社と直接交渉するしかない。相内は、覚悟を決めざるを得なかった。それは、相内が経験する初めての試練だった。

相内は、仕入先のエンジニアと密に話をし、いつまでだったら、どういう形までできるのかを確認した上で、通信会社に対して、こう申し入れた。

「このタイミングであれば、直した形でお出しできますので、今回についてはスケジュールの遅れを了承していただけませんでしょうか」

「そんなことを言われて、はい、そうですか、なんて言える訳がないだろう!」

ここから先は、相内の交渉の腕の見せ所となる。満額回答は出せないが、落とし所を探し、妥協点を見つけるわけである。

「全部しっかりと直すためには時間がすごく掛かるので、スケジュールに大幅な遅れが出てしまいます。そこで、ユーザーに大きな不利益を与える不具合はもちろんきちんと直させていただきますが、ここまでであれば、スケジュールの遅れを最小限にすることができますから、これで出させてもらえませんでしょうか」

即答は来ない。だめなのか。相内も必死だった。

「うーん……。それ以上はもうどうにもならないんだね。それでやってもらうしかないじゃないか」

相内の真摯な態度が、なんとか先方に伝わった瞬間である。日ごろの付き合いから、相内の誠実な性格は、先方もよく理解していた。

「ありがとうございます」

相内は、深々と頭を下げた。こうして通信会社にどうにか納得してもらうことはできたが、相内にはすっきりしない思いがあった。当然、よい結果も上げられなかった。

「全力投球している仕入先のエンジニアとも協力して、とにかくよい結果を出したかったのに、本当に力不足で悔しかったです」

相内は唇を噛み締めた。ビジネスの本当の難しさを痛感させられた瞬間でもあった。

⇒〈その4〉へ続く

 


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