商社の仕事人(67)その3

2018年10月31日

岩谷産業 河村恵美可

 

その“直感力”が

未来を創るエネルギーになる!

 

 

“素敵”なバースデイ

 岩谷産業に入社し、まず配属されたのは経営企画部のIR担当だった。業務内容は、投資家や株主と経営陣とのいわゆる橋渡し役で、会社全体のことを把握し、今後の会社の方向性についてもきっちり理解しておく必要があった。これは配属面接で全社的な視点が持てる部署に入りたいと河村が伝えたとおりの配属だったが、この部署で河村は社会人としての基礎をみっちりと叩き込まれた。河村は言う。

「仕事を頼まれて指示どおりに処理するだけでは、どんなに頑張っても100パーセントの仕事しかできない。どうして“私”に仕事を頼んだのかを理解することで、ようやく120パーセントの結果を出すことができると言われたのです」

河村によれば、例えば岩谷産業が採用していない財務指標について、「もし岩谷産業が採用することになったらどうなる?」と尋ねられたとき、「こうなります」とその結果は伝えるのは100パーセントの回答。しかし、そこで「他社はこうしています」「他社はこうした結果、こういう評価になっています」と参考情報を付け加えることができ、しかもそれが有益なものであって初めて120パーセントの回答となる。そして、そんな付加価値を付けられる“私”という人間でなければ、“私”の存在価値はないというのだ。

「業務全般についてスピード感を求められますし、さらに質問に対する回答の精度の高さも求められます。ですから、入社1年目はとにかくトラブルだらけ。それこそてんやわんやでした(笑)」

こう語る河村を支えたのは、指導役の先輩社員と経営企画部の部長だった。特に部長には「働くとはどういうことか」というごく初歩的な内容から実務の細部に至るまで、1つひとつ徹底的に勉強させられたという。そんな会社生活を送っていた河村が仕事の手応えをつかんだと感じたのは入社2年目に入ったころのことだ。ある日、いつものように部長から「この指標はどうなっているんだ?」と質問を受けた。その際、すぐに答えられなかった河村は「少々、お時間をください」と断りを入れ、調べた結果を改めて部長に提出した。その書類を見た部長がこう言ったのだ。

「おおっ、思っていた以上の完成度だ。成長したな」

この言葉が河村の自信に繋がった。当時を河村は次のように振り返る。

「私はいつも周りの人に恵まれていて、入社以降ずっとフォローされてきたんですが、部長のその言葉を聞いたときに初めて、ようやく自分1人でここまでできるようになったんだな、と感じました」

こうして少しずつ成長を重ね、経営企画部のIR担当としての入社3年目を終えようとしていた2012年の3月、出張中の部長から突然、1本の電話が入った。

「もしもし、河村か? 異動が決まった。中国だよ」

しかし、河村にはこの部長の言葉が今ひとつピンと来なかった。そろそろ異動だろうという雰囲気は部内にも漂っており、部長と食事をする席でも「営業に出たい」とは伝えていた。だが、あまりに唐突で心の準備ができていなかった。面食らった河村は思わず岩谷産業の“中国地方”にある支社だと勘違いし、「広島ですか? 岡山ですか?」と聞き返した。これに対して部長は言った。

「何言っているんだ、上海だ、上海。ワクワクするだろ!」

上海? 河村は驚きのあまり、「めっちゃワクワクします!」と復唱するのが精一杯だった。しかも、この日は河村の誕生日。上海駐在の内示は、部長からの何とも“素敵”な誕生日プレゼントとなった。そして、この内示からわずか2週間後、河村は上海岩谷有限公司に着任したのである。

⇒〈その4〉へ続く

 


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