商社の仕事人(67)その5

2018年11月2日

岩谷産業 河村恵美可

 

その“直感力”が

未来を創るエネルギーになる!

 

 

「計画」に自分を縛られないこと!

江蘇省の日系企業と産業ガス等納入の契約を締結した翌年の2014年4月、河村は2年間の駐在を終え、東京本社へ戻った。次なる配属先は産業ガス・機械事業本部の海外事業部。ここでの河村の仕事は、日本企業の海外進出の情報を岩谷産業の現地法人や事業所などに伝え、新規事業につながるフォローをすることだった。上海での経験をここで生かしながら、岩谷産業が海外進出する際の現地市場調査行った。

その後河村は2016年4月に同じ事業本部内のヘリウムガス部に異動し、現在、東北と北関東及び台湾や東南アジアのヘリウムガスの拡販事業を担当している。「He」という化学式で表されるヘリウムは、無色・無臭、比重0.14(対空気)という不燃性の気体で、風船や光ファイバー、半導体、液晶、太陽 電池などの先端技術や、医療用MRIをはじめ超伝導分野で欠かせないガスである。しかも世界6か国でしか産出されない天然資源で、岩谷産業ではアメリカからの調達に加えて、日本で初めてカタールから直接輸入権益を獲得し、全世界の約8パーセントの産出量を取り扱っている。また、GPS搭載の遠隔操作可能なコンテナを使って、アメリカやカタールの液化ヘリウムを輸入するとともに、中国やマレーシアを拠点に3国間貿易にも取り組んでいる。河村は言う。

「数年前“ヘリウム危機”が起こり、光ファイバーや医療用MRIで用いられるヘリウムは足りなくなり、ディズニーランドの風船までもが消えたことがあります。このようにヘリウムを安定供給するということは非常に難しいのです。このヘリウム危機に対し、岩谷はアメリカからの調達に加えて、カタールからの権益も獲得することで、今では国内ヘリウムのシェアは5割強まで拡大しました。私の仕事は、ヘリウムの国内シェアを上げていくため、各支社にいる社員たちと連携しながらヘリウムガスを必要とする医療関係や工場などに営業をかけたり、あるいはこれまでヘリウムガスを使っていない分野の需要を開拓することです。また、台湾や東南アジアの市場では欧米のガス会社と競争しています」

入社以来、IR担当から海外駐在と新規ビジネスの創出、その後、海外子会社の営業フォローにあたり、現在はヘリウムの拡販事業にあたるなど、少しずつステージを変えて成長を続けてきた河村は、入社後の8年間をこう振り返る。

「私は“女性だから”と意識せずに1人の総合職として日々、新たな提案を続けています。きちんとビジネスに取り組めば、男女を問わず仕事はできますし、周囲もそれを認めてくれます。ビジネスの環境は誰に対しても常にハードですし、上司からも高いレベルの結果を求められます。厳しい言葉を投げかけられることもありますが、決して“冷たい”言葉ではありません。“厳しさ”の裏には成長してほしいという温かさがあります。岩谷産業はそういう面で、家族のように育ててくれる会社だと思います」

今後の目標について、河村は「目標や計画は立てない」と言う。結婚や出産などのライフイベントもあれば、再び駐在があるかもしれない。自分が描いたように人生が進むわけもなく、思い描いたことが正しいとも限らない。「計画」を立てるのは自分を縛ることになるというのが河村の考えだ。自らがそうしてきたように、どんな環境でも自分の“直感力”を信じて進むこと。それが自らの未来を創るエネルギーになる、と河村は言いたいのだろう。ただ、思い直したように河村は「1つだけ希望がある」と言う。

「“仕事とは何か”という根本的なことから教えて頂き、今でも尊敬する経営企画部の部長の下で、いつかもう一度働きたいです。どういう立場でどんな仕事をするにせよ、それまでに部長の言葉にきちんと応えられる、部長のような商社パーソンになっていたいと思います」

岩谷産業で1つの道を切り拓いてきた河村。彼女は今、入社以来、厳しい言葉でその標を示してくれた上司を目指し、会社にとって、そして世の中にとって必要な人間になろうとしている。

 

学生へのメッセージ

「就職活動について、あまり深く考えず、“直感”を信じることも大事だと思います。私は学生の皆さんと話していると、“希望どおりの部署に配属されますか”と尋ねられることがありますが、そんなわけない(笑)。また、自分で“ああしたい、こうしたい”と決めてしまうと、その中でしか動けなくなり、そうでなかった場合のダメージが大きいのです。目標を持つことは重要ですが、もっと自由に動いたらいいと思います。岩谷産業は男女問わず、いくらでもチャンスが転がっている、あるいは与えてくれる会社です。あとは自分次第です。環境のせいにして甘えていたら、いつまで経っても成長できないと思います。働くということは、男性でも女性でも同様に大変なことです。そんな中でも自分が“これだ”と思った道を進んでいけばいいと思います。私は、この仕事が楽しいです。いろいろなことが起こりますけど、それを含めて(笑)」

 

河村恵美可(かわむら・えみか)

1987年、大阪生まれ。上智大学比較文化学部卒。2009年入社。

 

『商社』2018年度版より転載。記事内容は2016年取材当時のもの。
写真:葛西龍

 


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