世界中から
最適の機械設備を集める
大学院卒の商社パーソン
3カ国混合でのラインを受注
調達したのが現地製品や第三国製品でも、ユーザーが求めるのは「日本品質」である。その要求水準にまで引き上げるのは山本の仕事だ。
あるとき、タイの現地メーカーに工作機械を売り込む話が決まった。いよいよそのメーカーの工場で試運転をする3日前に、1枚の写真が山本のもとにメールで送られてきた。説明書きは「今こういう状況です」というひとことだけだ。写真を見て山本は青くなった。もうほぼ完成しているはずのものが、半分しかできていない。これは山本のビジネススタイルだが、この時もメーカーの工場に入り込んで率先して仕事をこなした。そこまでして初めて期限に間に合わせることの重要さがわかってもらえると思っていたからだ。口だけのビジネスは信用されないし、人を動かすことはできない。
「でもこのときはさすがに納品が間に合わず、少し遅れました。そのメーカーは工場が遠くて通えなかったのですが、チェックが甘かったと反省しました」
さらに工作機械単体ではなく、台湾製の大型プレス機と溶接機、インド製の金型、塗装工程は日本製の機械という3カ国が混ざったラインを山本は提案していた。
「車体のボディを作るラインで、要求される仕様水準に応じて選んだ結果です。タイでも相当目新しい提案だったと思います。全部日本製だと5億数千万円はかかるところが4億円でできるので、販売先も積極的に乗ってきてくれました。一応コンペにはなりましたが、思った通り勝てました」
だが成約してからが大変だった。インドから来た金型の担当者は、ベジタリアンで食事をする店がないから働けないと言い始めて、そのような食堂がある地域のホテルを手配し直した。台湾からの担当者は、旧正月には帰って休みたいと言う。そこはなんとか頼み込んで、1カ月間我慢して残ってもらった。
プレスの試し打ちが1回でうまくいくことはまずない。修正しながら完成させていくのが普通だ。日本ならお互い協力しよう、となるが、インドの金型メーカーは、材料が悪い、機械のせいだと言って修正しようとしない。しかし山本は落ち着いていた。
「そこで金型を分解して、ここの精度がおかしいからずれるんだと目の前で見せました。そこまで実証すれば、インド人でも台湾人でも納得してちゃんと対応してくれます。これまでの経験があったからこそできたのですが、もし1年目だったら大変なことになっていましたね(笑)」
チームリーダーの難しさを痛感する
タイで困難ながらも充実した期間を過ごした山本は、日本に戻ると元の職場で数名の営業チームのリーダーになった。
ところが自分ではこの立場にも慣れてきたと思うようになった頃、仲のいい同僚から「お前のところのチームメンバーが、山本さんには話しにくいよねと言っていたよ」と聞かされた。
「ショックでしたね。後輩には、バッドニュースファーストだ、悪いことほど早く相談しろと言っていたのですが、自分が抱える案件がうまくいかないときは近寄りがたい雰囲気だったみたいです。岡谷鋼機はコミュニケーションの密度が濃くて、良い意味でおせっかいなところがあります。なにかあったら相談して来いと上司や先輩からいつも言われてきて、自分も遠慮なく相談していました。ところが自分が上に立ったときにそれができていなかった。そこで感情を抑えて自分をコントロールしていくと、だんだんと頼ってもらえる機会が増えました。マネジメントの大変さとおもしろさを知りましたが、反省することの方が多かったですね」
日本に戻って4年後の2014年に、山本は名古屋本店豊田本部で海外担当になった。販売先は、その3年前にジャカルタに現地法人ができたばかりのインドネシアにある自動車関連の生産拠点だ。
「大手商社と取引をするような一次サプライヤーとの案件もかなり多くありましたが、岡谷鋼機のようにきめ細かく、相手のニーズに合わせて細かい動きのできる商社はあまりありません。競合してもうまくいくときは、だんだん当社に絞ってくれている感触がありました。
最初は機械設備単体の引き合いだったのが、話をしていくうちに、工場内の機械のほとんど全部を岡谷鋼機に任せてもらったこともあります。1年間ですぐメキシコ担当になったので、その後のことは実務担当者に引き継ぎました」
⇒その5「メキシコで開拓した顧客を岡谷鋼機の国内事業所に紹介する」
⇒岡谷鋼機