商社の仕事人(3)その2

2019年10月9日

ユアサ商事 清水拓也

 

いかに信頼される存在になるか。

そこから商社の仕事は始まる

 

 

仕様違いの大型旋盤が現場に届く。2000万円を誰が被るのか?

営業に出て2年目に、清水は予想外のトラブルに巻き込まれた。8000万円の大型旋盤の商談を前任者から引き継ぐことになった。すでに契約は終わり、あとは納品と集金を済ませればいいはずだった。だがそんなある日、販売店から入った連絡に清水は耳を疑った。

「ユーザーさんが、入ってきた機械が要求仕様と違うと怒っている。どうなってるんだ?」

形状が違う旋盤がユーザーの工場に納入され、大騒ぎになっていたのだ。当然、受注生産品なので取り替えれば済むという話ではない。今から要求仕様に合わせて作り直すとなると、総額で2000万円はかかるという。

「まだ経験が浅いのに大型案件をいただいて、ありがたいと思っていたら、とんでもないことになってびっくりというのが正直なところでした。自分のせいなのかそうでないのかさえもよく分からず、どうなることかとただ不安でした。とにかくすぐ上司に報告し、原因を調べました」

その原因は、ひとことで言えば単純な確認ミスだった。工作機械を納めるにあたっては、メーカーが仕様確認書を発行し、ユーザーがその内容を確認して、間違いがなければハンコをついて返すことになっている。ところがこのときはユーザーからの返事がないまま納入まで進んでしまった。その間にメーカーも販売店も、代理店であるユアサ商事も、どこもユーザーに念を押さなかった。仕様確認書には「返事がない場合はこの内容が正しいものとして製作します」という趣旨の一文があるので、法律上はメーカーに分がある。

「しかしもし裁判になったら、ユーザーは加工ができないまま、メーカーはお金が入ってこないままで、時間を浪費するだけです。誰も得をしないことは関係者皆が分かっていたので、ある意味協力して、互いに被れるところは被ってとにかくこの二千万円をなんとかしようと膝を交えて相談しました」

最終的には、納入した旋盤に大幅に手を加えずに済む加工方法を考え出し、新たに必要となる装備品などを無償で提供することで解決した。ユアサ商事も多少の赤字を被ったが、損失を最小限にすることができた。

「今考えれば、すぐに報告したのでぎりぎりなんとかなったと思います。でなければもっと深刻な事態になるところでした。悪い話でも言いやすい風通しのよさもあって、社内の助けが得られたのがありがたかったですね。もちろん取引先や仕入れ先のメーカーにも協力してもらえました。確認の問い合わせをしないことの怖さと、問題が起きたときの解決手順を実際に経験し、学ぶことが多い事例になりました」

⇒〈その3〉へ続く

 


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