ユアサ商事 清水拓也
いかに信頼される存在になるか。
そこから商社の仕事は始まる
ユアサ商事に声がかからないで話が進んでいた
ユアサ商事に目を向けてくれなかったメーカーを振り返らせて、取引の大幅な拡大に成功したこともある。
半年に一度、定期的に一億円を超える商材が流れていく大型案件があった。年間に1000台近く製造する大型機械に、一台につき数十個搭載する部品を納入するという案件だ。しかし毎回メーカー、販売店、ユーザーの三者で数量や金額などの大枠は打ち合わせが終了しており、半ば決定事項という形で、ユアサ商事に情報が下りてくるという状態だった。メーカーとユアサ商事とは全国規模での付き合いがあるから、どうにか商流からは外されていなかったのだ。
この案件の担当になったとき、清水は「異常な姿」だとまず危機感を抱いた。
「何もしなくていいよ。それでもちょっとマージンが乗るだけいいだろう。そう思われている状態だったはずです。当社が間に入ってしっかりと機能を果たしていくことを認知していただかなければなりません。そこで、毎月必ず関係者が集まるミーティングを、私が主導して始めました」
参加するのは清水のほかに、メーカーの担当者と、販売店の営業担当が5名。そのメーカーの製品をどのユーザーに展開できるかを販売店の各担当者が洗い出し、販売目標を設定し、毎回進み具合を確認する。この定期ミーティングを通じて成績が上がれば、ユアサ商事は存在感を回復し、信頼も得られるはずだと清水は考えた。
「実際はしんどかったですよ。マイナスからのスタートですからね。一体何を始めるつもりなのか、という目で見ていたと思います。今まではなにもせずに申し訳ありませんでしたと最初に謝りました。これからがんばるので、フォローしていただきたいとお願いして。真剣にやっている姿を見てもらうしか方法がないと思って続けました。開催日の主導権は私が持つこと、全員参加するという二点については妥協しないようにしました」
定期ミーティングだけでなく、メーカーや販売店に同行する機会を増やし、折々には勉強会も開いた。すると「次のミーティング、日程は決まった?」と参加メンバーから尋ねられるようになった。
そして始めて6か月後に、メーカーの担当の方にこう言われた。
「もうユアサ商事に任せるよ。金額決めも販売店との交渉も、清水君がやってくれないか」
やっと認められた、と清水は思った。
「それはうれしかったですね。収益も改善されましたが、何よりも私たちが本来果たすべき役割を認めてもらうことができました」
入社してから四年半で迎えた、これもまた大きな清水にとって大きな転機となった出来事だった。
⇒〈その5〉へ続く