商社の仕事人(4)その2

2019年11月25日

双日 阪本旬二

 

熱き魂をもって、

その一歩を踏み出せ!

 

 

木材チップは互恵ビジネス

そんな阪本が所属する林産資源部製紙原料課は、双日の九つの本部の中の一つ、生活資材本部に属している。生活資材本部は、衣食住のなかの「衣」と「住」という生活に直結した分野を担う本部で、 高い付加価値を生む事業を数多く手がけている。その一つがベトナムでの木材チップの生産事業である。

「木材チップというのは、木材をフレーク状に細かく切り砕いたもののことを言います。これを蒸解釜で薬剤とともに煮ることでリグニンという物質を除去し、繊維質〝パルプ〟を取り出します。このパルプが印刷物やティッシュ、段ボールなど、いわゆる紙の原料となるわけです」

こう語る阪本は、製紙原料課において、オーストラリアとベトナムの木材チップを担当している。 双日全体として日本の全輸入量の11パーセントを扱っていることになるという。10年ほど前は、日本全体の木材チップの輸入量はオーストラリア産と南アフリカ産の木材チップが輸入量の半分程度を占めていたが、現在ではベトナム産の木材チップがオーストラリア産の輸入量を抜き、全体の約30パーセントとなっている。そのベトナムでの木材チップの生産を、チップ材の植林事業に始まり、今日まで四半世紀に渡って行ってきたのが双日なのである。

「事業のきっかけは、1987年にベトナム政府から植林と雇用の創出を依頼されたことによるものでした。そこで、森林の回復のための植林とその伐採、木材チップ生産による雇用創出という、独自のビジネスモデルを考え出したのです」

当時のベトナムは、戦争と伝統的な焼き畑農業により、森林面積が国土の3割を切っており、森林環境の回復は急務だった。双日(当時、日商岩井)は、当初ベトナムの政府系林業会社5社をパートナーに、チップ材の植林経営者の自立を促すビジネスモデルを構築し、木材チップの生産工場を設置。日本への輸出を開始した。これにより、森林環境は回復し、この20年余りで約50万人の雇用を生み出すことにも成功している。また、それはベトナム国内だけでなく、日本および双日にとっても高い付加価値の付いた互恵ビジネスとなったのである。

「ベトナム産の木材チップは、原料や生産コストが低く、他の生産国と比べて日本への輸送距離が近いため、物流コストも抑えることができます。しかも、2008年のリーマンショックによる世界不況によって、そのコストの強みにより需要がさらに高くなり、いまや世界最大の木材チップ輸出国に成長しています。そして、その日本での取扱量ナンバーワン商社が双日なのです」

阪本は入社1年目の1月から3月まで、新人でありながら異例のベトナム研修に赴いた。木材チップの生産現場をつぶさに見ることで、日本国内の取引先に対して、より具体的な情報を提供することができるからである。

「植林地に行くと、木材を昔ながらの伝統的なのこぎりで切り、おばあちゃんたちが手で皮を剥いているわけです。彼らは、1ヘクタールの木材を切り取るまで、そこでキャンプ生活をしています。そこから木材はトラックで輸送され、チップ工場で加工されます。木材やチップの輸送から保存方法の確認、切削機械のメンテナンスにいたるまで、3か月の間に全工程をしっかりと目に焼き付けました。また、現地企業の経営管理なども頭に叩き込みました」

入社以来、まさに〝木材チップ漬け〟の日々を送る阪本。しかし、彼がこの会社の、この部署にたどり着くまでには、いくつかの伏線があった。

⇒〈その3〉へ続く

 


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