双日 阪本旬二
熱き魂をもって、
その一歩を踏み出せ!
〝やりたいことから考える〟という発想
晴れて双日に入社した阪本は、製紙原料課へ配属となる。それもまた〝人〟で選んだ結果だった。
「内定者のときに組織説明会があり、そこで各部の部長と主任がプレゼンをしてくれたのです。人に惚れて入社したわけですから、何をやるのかについて、まったくこだわりはありませんでした。配属された部署で結果を残せるかどうかは自分次第。ですから、説明会に出てきた部長や主任のうち、一番突き進んでいる印象を持ったのが林産資源部でしたので、そこに希望を出しました。ただ、配属されたら、その部長も主任も異動してしまって、その部署にいなかったんですが(笑)」
部長や主任はいなかったが、阪本が想像したとおり、林産資源部はポジティブな発想で、仕事を進めやすい環境だった。阪本は入社後、半年間、事務職の社員の下で仕事をしながら商売の流れについて学び、その後、教育係の社員である指導員とともに営業の現場に出た。そして前述のように、その3か月後には早くもベトナム研修に赴き、海外事業と現場の仕事について叩き込んで帰って来たのである。
そんな双日の1年目、阪本はこの会社に入って心底良かったと思った経験があるという。それは、先輩社員に呼ばれて会議室に行ったときのことだ。その先輩は、机の上に世界地図を広げて、こう言った。
「将来、どこに住みたい?」
阪本がハワイと言うと、先輩は言った。
「ハワイ、いいよなあ。ハワイに木とかどれだけ植えられているかなあ…」
それはまったく逆の発想だ、と阪本は思った。
「ハワイに住みたいから、ハワイで仕事を作る。そういう〝やりたいことから考えてみる〟という発想を持つ人間が、双日にはいます。既存の商売にとらわれず、やりたいことから考えて、それには何が足らないかを考える。そんな人たちがいるのはすごくうれしかったです」
双日に入社し、まさに水を得た魚のように働く阪本。しかし、阪本の双日での仕事がすべてにおいて順風満帆だったというわけではない。手痛いミスを犯したこともある。それは入社2年目の、ちょうど仕事に慣れ始めたころのことだった。阪本はあるメーカーに対して、やや強気な交渉を行った。
「この金額で購入するかどうか、明日の午後までに判断してください」
木材チップはメーカーと年間契約をするのが基本だが、それはあくまでも大まかな量や金額でしかない。価格が安いときに仕入れて売り込みに行くこともあれば、メーカーが必要なときに注文をしてくることもある。どのタイミングでどれだけの量をいくらで納品するのかは、その都度、メーカーと交渉をすることになっている。
「ベトナム産の木材チップなら、うちより安いところはありません。そんな絶対の自信があったため、つい相手の足元を見てしまいました。たぶんそのメーカーさんは僕が提示した金額でOKだったのだと思いますが、僕の交渉の仕方にカチンときたのだと思います」
実際、その翌日、「その金額ではうちは購入しません」という連絡が入り、その取引は他社に取られることになった。4億円の売上が消えてしまったのである。
「そのメーカーの担当の方とは今、めちゃくちゃ仲がよくて、毎日連絡を取り合っています。そのときのことは詳しくは聞きませんが、ミスをしたおかげで商売の進め方については、本当に細心の注意を払わなければならないと肝に銘じました」
⇒〈その5〉へ続く