商社の仕事人(6)その5

2020年01月6日

三菱商事 鐵屋圭一

 

未来は、

足元の一歩から始まる

 

 

その一歩の先にこそ

こうして4年間、国内・アジアチームでみっちりと船舶ビジネスの基礎を叩き込まれた鐵屋は、5年目に同じ船舶ユニットのプロジェクト開発チームへ異動となる。このプロジェクト開発チームで鐵屋は、LPG(液化石油ガス)やLNG(液化天然ガス)など、特殊な貨物を運ぶ船舶を担当することになった。

「私が担当することになったLNG船は、一隻200億円程度。貨物船としては最も高額な船となります。LNGは超低温、且つ可燃性であることから安全面には最大限の考慮をした上での取り扱いが必要となることに加え、どうしても気化してしまうガスを動力元として活用するといった他の貨物船にはない特殊仕様となっています。一回に積む貨物が5、60億円という非常に高価なものであり、燃料費を含めた輸送コストの極小化、並びに受け渡しスケジュールの遵守は極めて重要な要件となっており、船の仕様面といったハード面のみならず、保有・運航といったオペレーション面でも最上級のパフォーマンスが要求される業界です。この部署に来て改めて船舶ビジネスって〝奥が深い部門だ〟と思いました」

そして2年間、プロジェクト開発チームで特殊貨物船の知識と経験を積んだ鐵屋は、2011年、冒頭で紹介したエネルギー事業グループの天然ガス事業本部事業戦略室に社内出向することになる。この事業戦略室で、鐵屋は各事業部に対しLNG船に関するコンサルティングを基本業務としつつも、具体的な船腹調達プロジェクトについては船舶部と連携し対応している。

「アメリカのシェールガス革命に起因した天然ガス生産地域の多様化、インドや中国、南米でのLNG導入など、天然ガスを巡る環境は大きな変化の中にいます。それゆえ、生産拠点から消費拠点をつなぐ物流にも大きな変化が起こりつつあり、お客様のニーズも多様化することは必至です。LNGの売主と買主を〝つなぐ〟ことが天然ガス事業本部としての一つの役割ですが、私はLNG船というLNG事業の中における非資源分野で今後どのような付加価値を提供することができるのかが重要な業務だと考えています。LNG船事業未経験のLNG買主に対しLNG船事業をゼロから説明、お客様に納得頂ける契約スキームを創り上げ、保有・運航事業に関わるすべての実務を取り仕切った上で船を提供する事業に主担当として関与した経験もありますが、今後はLNG船事業を梃子に三菱商事が関与する権益のLNGを販売する、といったビジネス展開の可能性も増やしていければと思っています」

着実に一歩ずつ階段を上り続ける鐵屋。彼は入社後から今日までの自分を次のように振り返る。

「私は、今やっているLNG船腹担当という仕事が、入社直後からすぐにできるだろうと思っていました。でも全くの過信でした。この業務を行うには実務能力が伴った数多くのスキルを身につける必要があります。理想論を語ることは簡単ですが、我々商社は提案内容に対し経営資源をコミットして、期待されるアウトプットを提供することまでが要求されます。上司はそうしたことをあえて口にはしませんが、現場に放り込み、色々な経験を積ませることによってその重要性を示したのでしょう。各現場で身につけた個々の知識と経験は、商社パーソンとしての大きな財産となります。こんな人材育成ができるのが、三菱商事という会社のすごさだと思います」

そして船舶ビジネスのスペシャリストとしての自らの将来について、鐵屋はにこやかな表情を浮かべながらも、きっぱりとこう言い切った。

「5年先、10年先のことは分かりません。将来のビジョンは社会の変化によって大きく変わります。実際問題としてリーマンショックの前後で180度変わってしまったのですから。ただ、私の経験から一つだけ言えるのは、足元の一歩を大切にすれば、その先に確かな未来が待っているということです。どんなビジネスシーンでもコツコツと経験と知識を積み上げれば必ず得るものがあります。少なくとも私はそう信じています」

 

学生へのメッセージ

「人が財産と言われるように、三菱商事には、皆さんが想像している以上に多種多様なバックグラウンドを持ち、各分野におけるスペシャリストたちが日々一緒に業務を行っており、ありとあらゆるノウハウが蓄積されています。ただ、それは無形な場合が多いので、入社してもそれがどういったものなのかすぐには分からないと思います。しかし、それはすでに皆さんの目の前に並んでいて、見ようとする、あるいは取ろうとする意識のある人にだけ、転がり込んでくるというしくみになっています。そういう意味で、三菱商事はとても魅力的な会社だと思います。会社は変化し続けます。外部環境の変化に対応できない会社が継続的に価値を創出することは極めて困難です。ですから、百年続く会社は稀なのだと思います。大切なのは事業形態ではなく、事業を行う上でのフィロソフィーです。また、これは三菱商事に限りませんが、とにかくオポチュニティを大切にしてください。就職活動においても、就職後においても、努力する人は必ずいい機会に恵まれると思います」

 

鐵屋圭一(てつや・けいいち)

【略歴】
1981年、米国ヒューストン生まれ。ケンブリッジ大学大学院修士課程修了。2006年入社。

 

『商社』2016年度版より転載。記事内容は2013年取材当時のもの。
取材・文:大坪サトル
撮影:葛西龍

 


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