商社の仕事人(10)その3

2017年03月15日

蝶理 菅原 耕平

 

めげず、臆せず、

ビジネスの開発・拡大に

挑み続ける

 

ビジネスに賭ける熱い思いの共有が最大の突破口となる

計画がスムーズに前進しない原因は、K社の品質要求、管理体制が大変厳しいことだった。菅原は、同原料メーカーに対し、何度も品質改善を要求していたが、品質改善は、原料メーカーにとって膨大な手間がかかる作業、且つ、メーカー社内においても様々な認証を得なければならない。そんなに簡単に応じられることではなかった。

これでは、計画が頓挫してしまいかねない。何とかしなければならない。電話やメールでのやり取りは、もう限界だった。そこで思い切った施策を実行することにした。原料メーカーを説得して、一緒にK社の本社をはじめインドネシア、タイ、中国の工場などを訪ねることにしたのだ。

菅原の海外行脚が始まった。電話やメールでは伝わらなかった実物を見てもらい、その場で多くのやり取りを繰り返した。商社の仕事は信頼関係がなければ成り立たない。菅原は、その作業をすごいスピードでこなしていった。成果は出始めた。

「原料メーカーの方々に対してはK社がどんなにしっかりした会社で、どれほどこの原料を重要視しているか、それゆえに当ビジネスがどれほど伸びる可能性を秘めているか、ということを丁寧に説明してきたつもりでしたが、実際はあまり伝わっていなかったことがわかりました。それなら、直接現地を訪問し、会って話を聞いてもらい、自分たちの目で確かめてもらうのが一番だと考えました。現に、現地の技術の担当者や購買の担当者などに会ってもらったら、お互いがいかに真剣に取り組んでいるかが分かり、ベストを尽くしてビジネスを成功させようという共通認識が生まれました。すると、そこから様々な案件が驚くほどスムーズに進むようになりました」

それから1年後、菅原の努力はやっと結実した。K社の輸入代理店として認められ、ビジネスが大きく拡大したのだ。しかしながら、当初計画に遡って考えると、当ビジネスにおいては、2年以上にわたり、サンプル評価、品質改善、技術ミーティングなど、全くお金にならない仕事しかなかったということになる。

その間は、社内の目も気になるし、普通なら、上司から「もうやめろ!」といつ言われても仕方がないところだが、菅原はひたすらやる気をアピールするとともに、上司には「この案件はこれだけ伸びるから」と常に言い続けた。これは誇張ではなく、菅原自身の信念であった。協力してもらっている現地法人の駐在員たちにも、同じように説明し、懐疑的にならずに、一緒に頑張ってくれるように依頼し続けた。最も効果があったのは、K社から原料メーカーを監査する目的で担当者が来日した際に、上司や本部長に直接会ってもらったことだった。

「蝶理全体でこれだけ頑張っているんだよ、ということを社内およびK社に対してもアピールできるような土俵が作れたと思います。もちろん、上司も段々乗り気になってきてくれました。そうすると、新規開発に必要な費用を出してもらえるようになったり、出張にも行きやすくなったりという具合に相乗的な効果も出てきました。私は、そうした雰囲気作りも仕事の一定部分を占めると思っています」

努力の甲斐があり、今では、K社が新しい製品を開発するために新しい原料が必要になると、一番に蝶理に連絡がくるようになっている。信頼関係は深く築かれていたのである。また、K社との取引をきっかけに新たに始まったビジネスも、着実に数が増えてきている。しかし、菅原には感慨に浸っている時間はなかった。

⇒〈その4〉へ続く

 


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