商社の仕事人(15)その1

2017年04月17日

日鉄住金物産 山川哲平

 

ビジネスマインドさえあれば、

商材は選ばない!

 

 

【略歴】
1982年兵庫県西宮市生まれ。関西大学商学部卒。2004年入社。

 

サクセスストーリーは突然に

それは2010年、春まだ浅いある日のことだった。

繊維事業本部(当時の名称は「繊維カンパニー」)・ニット第1部ニット原糸第3課に所属する、入社7年目の山川哲平は、突然、部長に呼び出された。

「いったい何だろう…」

山川に思い当たることは何もなかった。なぜなら、その1年あまり前から、山川が手がけたヤングレディス向けニットが抜群の売上を叩き出していたからである。

ファッションの世界において、シーズンごとに何が流行するのか、次のトレンドが何なのかを予測するのは非常に難しい。繊維業界をリードする商社の1つである日鉄住金物産も、その例に漏れない。流行を予測して仕込みを増やしても、売れ行きが芳しくなければ不良在庫となり、また仮にヒットして追加注文が大量に舞い込んできたとしても、その準備を怠っていれば売上を伸ばすことはできない。受注後に作り始めたのでは売り時期を逃すどころか下手をすると膨大な量の在庫を抱えるはめになる。わずかな判断ミスが命取りという厳しい世界なのだ。

「たとえば春物の場合、毎年1月から店頭に商品が並び始めます。でも、私たちはその1年以上前の、何が流行するかまったく見当もつかない時期から動き出します。海外の展示会などから情報を得て、毎週のように翌年春のトレンドについての打ち合わせを行います」

機会を見つけては女性雑誌を読み漁るという山川は、社内外のデザイナーたちや、販売計画などの権限を持つ取引先のMD(マーチャンダイザー)とともに、海外の展示会や現地生産工場に足繁く通い、トレンドとなるデザインの提案だけでなく、生産枚数決めや価格交渉といった具体的な折衝も行う。そして、客先のデザイナーとMDの両者のコンセンサスを得て、ようやく新アイテムの生産に着手する。

2008年の春物ニットは、山川の予想がずばりと当たり、1月の立ち上がりから2か月の間にどんどん売上を伸ばした。そしてさらに、思わぬ援護射撃があった。

「3月に発売されたファッション誌の表紙で、有名モデルがそのニットを着ていたんです。そのため、ゴールデンウィークの商材として、同商品が加速度的に売り上げを伸ばしました。しかも、デザイン性が高く評価されたこともあり、夏を超えて、その年の秋冬シーズンでも素材を綿からウールに変えて売れ続けたのです」

トレンドを予測し、用意周到な準備を行った結果として得た記録的なロングヒット。繊維事業本部での山川の商社マン人生はまさにサクセスストーリー。順風満帆だった。それゆえ、部長から呼ばれた理由がまったく分からない。

「数字も上げているし、変な在庫も抱えていないし…、まさか褒められる…わけはないか」

首をかしげながら訪れた山川に部長はこう告げた。

「山川、今度、鉄鋼事業本部に異動になるからな」

⇒〈その2〉へ続く

 


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