商社の仕事人(15)その2

2017年04月18日

日鉄住金物産 山川哲平

 

ビジネスマインドさえあれば、

商材は選ばない!

 

 

ウソのない就職活動

精悍な面構えの山川。鋭いまなざしを持つ彼は、高校時代、ずいぶん『やんちゃ』だった。アメリカンフットボール部を2年で辞めてからは、鍛えぬいた身体をもてあますかのように、大阪・梅田あたりを肩で風を切って歩いていたという。

「尖ってましたね。本当にいきがってました。当時はそれがかっこいいと思っていました」

高校卒業後、関西大学の商学部に進んだ山川は、将来、世界と商売できる仕事に就きたいと考え、3年進級時、国際ビジネスコースを選択する。

「母親が自宅で英語教室を開いていたため、小さいころから英語に接する機会が多く、自然と海外に興味を持ちました。また大学時代にバックパッカーでタイやマレーシア、カンボジア、インドネシア、フィリピンなどを回り、そのころから『世界』を意識し始めていました」

将来を見据えて貿易実務のゼミに入った山川は、ゼミナール協議会の副委員長を務める。ゼミナール協議会とは、異なるゼミが一緒にディスカッションする場を提供するなど、ゼミとゼミの横のつながりを作る組織である。また、山川たちの活動は学内だけにとどまらず、他の関西地区の私立大学で、同じ研究をしているゼミや学生たちを集め、ミーティングや情報交換を行っていた。

「異なる世界、異なる組織に属している人とコミュニケーションをとるのが好きなんです。会話の糸口を見つけるには、いかに相手の懐に飛び込んでいくかが勝負。そうしないと相手も心を開いてはくれません。ゼミナール協議会の会議を休んでも、飲み会には100パーセント顔を出して、いつも会話の中心になっていました。まあ、なんだかんだ言って、根は目立ちたがり屋なもんで(笑)」

そんな山川も大学3年生の秋になり、就職活動のシーズンを迎えることとなる。山川はいくつかの会社説明会を聞きに行ってみた。だが、なかなか魂を揺さぶられる企業には出会えない。それどころか、説明会の堅苦しい雰囲気に違和感を覚え、面白くないと感じると途中で抜け出して帰ってしまうこともあった。

「説明会の冒頭で人事の方が話をして、興味が湧かなければ、失礼だとは思いましたがそっと外に出てしまいました。その場にいても仕方ないと思ったからです」

就職活動でも持ち前のやんちゃ気質が顔を覗かせた山川。しかし、説明会への参加やOB訪問を繰り返すうち、その心を捉えて離さなくなる業界が現れた。それが商社だった。商社に勤めるOBの中には、スーツをびっしり着込んで、海外を飛び回る人もいれば、カジュアルなスタイルでちょっと遊び人風な人などと様々な人がいた。話を聞くと、誰もがみんなアグレッシブで格好良かった。もともと海外志向が強く、人づきあいがよく、人と人のつなぎ役を買って出るタイプの山川は、志望をすぐに商社業界一本に切り換え、なかでも繊維に強みを持つ商社に絞った。それは学生時代からファッションに興味があり、「自分の目の届く、身近な商材」だったからだ。

「よっしゃ! 繊維で世界を股にかけたる!」

そう思った山川が、繊維を扱う商社の中でも最も惹かれたのが日鉄住金物産だった。

「日鉄住金物産は繊維に強く、面接官は自信と威厳をもって応対してくれましたし、本当に魅力的な人ばかりでした」

面接で、山川は「ウソはつきたくない」と何度も繰り返した。そして自分が一生懸命にやってきたこと、自分が入社してやりたいことをひたすら述べた。市販の面接マニュアル本に書かれているような、相手企業に対して思っていないような美辞麗句を口にすることはなかった。

「第一志望でない会社に『第一志望です』とは言えません。気持ちが入ってないのは相手にもわかるじゃないですか。逆に、本当に行きたい会社には、思いを込めて話すだけでしっかり伝わる、そう思います」

就職活動では、選考が進むに従って、学生と人事担当者との距離はぐっと縮まってくる。山川の場合も同様だった。個性的な雰囲気の日鉄住金物産の人事担当者と山川はすっかり打ち解けていた。だが、いくら人間関係が出来上がっていても、採用・不採用には一切関係はない。最終面接を終えて数日後、その担当者から山川に電話がかかってきた。

「はい、山川です」

電話に出るとき、珍しくちょっとだけ緊張した。

「山川君、ふふっ、内々定だよ」

「本当ですか! …やったぁ!」

それはまるで先輩後輩のような会話だった。山川は言う。

「何か特別秀でていたわけでもないのに、まだ世間知らずで、怖いものなしでしたから、私への連絡はそういう一風変わったものになったんでしょう」

日鉄住金物産からの内定を得て、山川の就活は終わった。他の商社には選考活動の辞退を申し出て、山川は残りの学生生活を充実させるため、さっそく旅支度を始めたのだった。

⇒〈その3〉へ続く

 


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