商社の仕事人(15)その5

2017年04月21日

日鉄住金物産 山川哲平

 

ビジネスマインドさえあれば、

商材は選ばない!

 

 

商材の垣根を超えて

思いがけず、鉄鋼で世界を股にかけることになった山川は、2012年、巨額のビジネスを成約へと結びつけた。それは、新日鐵住金と、フランスの鉄鋼大手バローレック社がブラジルで立ち上げた製鉄所で生産したシームレスパイプの、イタリアの鉄鋼問屋への納入だった。このイタリアの鉄鋼問屋には、もともと新日鐵住金和歌山製鉄所で作ったシームレスパイプを山川の仲介で納入していた。だが、新日鐵住金からブラジルの製鉄所のシームレスパイプの売り先を考えてくれと依頼されたとき、ふとこの会社のことが山川の頭をよぎった。

「イタリアの鉄鋼問屋にとっては、アジアの巨大な高炉メーカーである新日鐵住金とフランスのバローレックというダブルネームブランドの製品を扱うことができるとともに、新日鐵住金の欧州主要代理店になれること。一方、新日鐵住金としては、これまでプロジェクト単位での納入実績だったヨーロッパ市場に、定期的に納入できる販路が確保できること。そして、当社としても、ブラジルからイタリアまでの航海日数は、和歌山からよりもかなり短いため輸送費が削減でき安価な価格設定が可能なこと。このように顧客、新日鐵住金、当社の3社ともにメリットがあったのです」

ただし、新日鐵住金とイタリアの鉄鋼問屋を結びつけただけで、山川のビジネスが終わったわけではない。まずイタリアの鉄鋼問屋に対しては、今度は納入したシームレスパイプの売り先まで見つけなければならなかった。というのも、和歌山製鉄所からのシームレスパイプも引き続き定期的に購入してもらっていたからである。買っても売れなければ、この先、定期購入を継続してもらえない。

「お客様には莫大な金額を払って鋼材を購入していただいています。それだけリスクを冒しているわけですから、そのリスクに見合うどころか、それ以上の満足を得ていただく必要があります。ですから、有益な情報を日々入手し、提供しています。どう売るか、どうやったら儲かるかという仕組みまで考えた満足をお客様に提供しているのです」

鉄鋼という商材の知識はもちろんのこと、鉄鋼を取り巻くビジネス環境や売り先などのあらゆる情報に精通した山川は、すっかり鉄鋼畑の商社パーソンとなった。だが、意外にも繊維担当だったころの経験がけっこう役に立っているという。

「繊維事業本部時代には、アパレルということでよく絵を書いて相手に説明していました。ニットのデザインなどを言葉で説明しても理解されないことが多いからです。それが今、鋼材の破損個所や梱包のポイントなど、自分のイメージを絵にして伝えています。すると、みんなすぐに分かってくれるんです。言いたいことを正確に伝えるのがコミュニケーション。コミュニケーションとは語学力だけではないんです」

海外の顧客から「山川の説明は分かりやすい」と評価されるのは、こうしたコミュニケーション能力の高さによるものである。そして、それは次のビジネスへの展開にもつながっている。山川の取引先にはアジアの裕福な企業家たちも多い。たとえば鋼材の輸入を行っているシンガポールの顧客は、経営の多角化にも積極的で、日鉄住金物産の関係会社である「つぼ八」と、同社の居酒屋チェーン「つぼ八」や「ホルモンの美味しい焼き肉 伊藤課長」の現地展開などにも広がった。また、インドネシアの顧客は現地でコーヒー豆の農園も経営しており、その日本への販路拡大として食糧事業本部を紹介してほしいなどといった相談を受けることもある。

「僕は鉄鋼事業本部に異動して本当に良かったと思っています。当社では、すべての事業本部が自らの商材に自信を持ち、自分たちの仕事が一番だと思っている。それは素晴らしいことです。ただ、事業本部間の異動を経験してみて、僕自身は、商材ではなく商売が好きなんだと実感しました。商売という点ではどの事業本部もみな同じ。そしてその原点となるのが、顧客のことを真っ先に考えるビジネスマインドなのです。ですから、この先、どの部署に異動しても、僕はビジネスを楽しむ自信があります。たぶん、上の人たちは、それを見抜いたからこそ、僕を異動させたのでしょう」

2013年10月、住金物産は日鐵商事と合併し、日鉄住金物産として新たなスタートを切った。更に大きな舞台が整った今、山川は新たなビジネスを創出すべく日々ビジネスに取り組んでいる。顧客最優先というビジネスマインドを手にした山川は、商材という垣根を超え、日鉄住金物産という舞台で、さらに大きく、グローバルに暴れ回るに違いない。

 

学生へのメッセージ

「仕事上のメールで取引先から何かを依頼されたとき、僕は〝承知しました〟というひと言メールだけは打たないようにしていますし、後輩たちにもそれを求めています。返信メールには、相手の気持ちをぐっと引き寄せるような気の利いたひと言を付け加えるのです。そのひと言を考え続け、使い続けるようにしないと、多くの人や情報の中に埋没してしまいます。また、〝○○までにやります〟と相手にはっきり期日を伝えるようにします。こう言い切ることで自分に締切りを設け、自分で自分を追い込みます。学生の皆さんは就職活動で悩むことは多いと思います。しかし、ウソをついて会社に入っても、そこに幸せはありません。自分の気持ちに正直になり、それで相思相愛となる相手(会社)を見つけるのが就職活動だと思います。ぜひ一緒に働いて、いっぱい飲みに行きましょう」

 

日鉄住金物産・山川哲平(やまかわ・てっぺい)

【略歴】
1982年兵庫県西宮市生まれ。関西大学商学部卒。2004年入社。

 

『商社』2016年度版より転載。記事内容は2014年取材当時のもの。
取材・文:大坪サトル
写真:葛西龍

 


関連するニュース

商社 2024年度版「好評発売中!!」

商社 2024年度版
インタビュー インターン

兼松

トラスコ中山

ユアサ商事

体験