日鉄住金物産 山川哲平
ビジネスマインドさえあれば、
商材は選ばない!
相手の顔を見て話せば……
鉄鋼、産機・インフラ、繊維、食糧の4つの事業分野から構成されている日鉄住金物産。2004年4月、入社した山川は繊維事業本部のニット第3部ニット製品課に配属されることになった。ここで山川は1年間、指導員の入社7年目の先輩社員にみっちりと鍛えられた。
「自分に自信があっただけに仕事なんてやればできると思っていましたが、それをぼろぼろにされました」
メールの書き方、電話の応対…。すべてに細かな注意を受けた。大学時代は英語でのやりとりにもそれなりに自信があった。だが、それはあくまでも相手の顔を見ながら直接会話していたので伝わっていたというだけ。ビジネスシーンで必要とされる文章力・表現力、電話での会話力はあまりにも足りなかった。現場の貿易実務も、今まで学んできたものとは大きな隔たりがあった。
「相当に出来の悪い新人社員だと思われたんじゃないでしょうか」
だが、先輩社員の背中を見て、山川は少しずつ時間をかけて成長していった。そして1年後、山川は指導員のもとを離れ、独り立ちすることになった。と同時に部署も、ニット第1部ニット原糸第3課に異動となった。異動前の部署はミセス中心の衣料だったが、異動先ではヤングレディスものが中心で、店頭の商品サイクルが早く、市場規模も大きい。当然、トレンドの見極めなど、判断も早くする必要があった。山川はこの部署で実質的な繊維ビジネスの営業について学んだ。
「僕が一番やりたかったジャンルだったので、もうノリノリでした」
順調にキャリアを積み重ねていく山川だったが、時には背筋がひやりとするような経験もしたという。それは、ある商品のサンプル出しのときのことだった。商品サンプルが締め切りに遅れそうになったのである。もともと商品サンプルは生産工場から船積みする前に、顧客であるアパレルメーカーに確認・承認してもらわなければならない。そして、その商品サンプルを使って、広報用の写真撮影も行う。ところが、いくら待っても中国の工場から商品サンプルが送られてこない。現地に問い合わせてみると、商品サンプルを作るのが間に合わないという。山川は一気に熱くなった。
「ちょっと待ってください、最初からこのスケジュールで連絡していたでしょう」
だが、現地工場の担当者も引き下がらない。途中の確認作業や、こちらから色見本を出すのが遅かったなど、間に合わない理由を並べる。
「とにかく、絶対に間に合わせてください!」
大声で叫んでも埒は明かない。山川は中国の現地工場に飛んで行き、膝詰めで説明する。すると、意外にも担当者はその状況を理解して、締め切りに間に合わせるべく協力してくれた。
「商品サンプルがないと、顧客の売上がどれだけ減るのか。みんなにどれだけ迷惑がかかってしまうことになるのか。それをきちんと伝えれば、現場担当者も工場の工員たちも頑張ってやってくれます。国が違っても文化が違っても、相手の顔を見て話せば、必ず通じ合えるんです」
こうして山川は2、3日で商品サンプルを作って、そのまま飛行機で持ち帰り、事無きを得た。入社して2年あまりたったころの出来事だった。その後、春物ニットでロングヒットを飛ばすなど、確実に売上に貢献した。その山川に鉄鋼事業本部への異動が告げられたのである。
⇒〈その4〉へ続く