商社の仕事人(15)その4

2017年04月20日

日鉄住金物産 山川哲平

 

ビジネスマインドさえあれば、

商材は選ばない!

 

 

ビジネスの基本とは、声なき声を聞くこと

「鉄鋼事業本部に異動になるからな」

部長の言葉に山川は一瞬呆然となった。聞き間違いではないかと思った。事業本部をまたぐ異動はそう頻繁にあることではない。

「なんで、俺が…」

山川は唇をかみしめた。それまで培ってきた知識が、実績がすべて失われてしまう。折しも、社内結婚した奥さんも部署異動となり、夫婦揃って初めての環境に放り込まれた。新しい仕事に適応するため、職場での緊張は当然高まる。

「なんだか2人とも家でもピリピリしちゃって(笑)」

そう笑う山川だが、実際、繊維と鉄鋼では正反対と言っていいほどビジネス環境が違うという。

「繊維は海外から仕入れ、国内のアパレルメーカーに売る。つまり輸入です。一方、鉄鋼は国内の高炉メーカーから仕入れて海外に売るなど、輸出を中心としたビジネスモデルも数多く存在します。しかも、繊維では、中国やASEANといったある程度決まった範囲が取引先の中心。ところが、鉄鋼の輸出先は、広範囲。アジア全域、南米、ヨーロッパ、オーストラリア、アフリカ…、よりグローバルなわけです」

山川が異動したのは、鉄鋼事業本部の鋼管第1部東京鋼管貿易課だった。この部署で扱う商材は、新日鐵住金が世界に誇るシームレスパイプ。原油やガスの掘削、輸送等に使われる同社のシームレスパイプの品質の高さは、世界が認めるナンバーワン商品である。ただし、親会社とは言っても、ビジネス面はシビア。極端な言い方をすれば、繊維のときのように複数の仕入先の選択肢がある中で主導権を持って『買う』ビジネスから、顧客からも仕入先の指定がくる『買わせていただく』ビジネスとなる。

「鉄鋼という商材に対する知識不足もさることながら、仕入れの難しさに対する繊維と鉄鋼のギャップに最初はかなり戸惑いました」

しかし、当たり前のことながら、山川はもう入社1年目の駆け出し商社パーソンではない。社会人としてのマナーもしっかり身についている。繊維事業本部で大きな成功も経験し、失敗を未然に防ぎ、切り抜ける術も会得した。

「繊維事業本部のときに、よく部長から怒られていたのが、相手の立場に立って考えろ、ということでした。相手が何を言わんとしているかをよく考えて、仕事をしろということです。僕は自信の塊なので、常に自分が主導権をとりたがる。つまり、自分からのアウトプットが強くなり、インプットがとても弱い。傾聴するという気持ちを忘れるなということを教えられました。それが鉄鋼事業本部に異動後もすごく活きています」

顧客や取引先の声にならない声に素直に耳を傾ける。それこそが、入社以来山川の身体に徹底的に染み込んだ商社のDNA、ビジネスマインドだったのである。

⇒〈その5〉へ続く

 


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