商社の仕事人(16)その2

2017年04月25日

岩谷産業 西口眞敬

 

水素エネルギー社会に向け、

営業というフィールドで

夢を具現化する

 

設備機器管理のベテランと繰り広げた粘り強い交渉

例えば、地盤面からどの程度の高さに設備を設置するか。通常なら問題ない高さでも、過去の水害を前提に具体的な数値を求められる。西口にとっては予期しなかった要求が、次々と突きつけられた。

「こちらも営業ですから、全ての要求をそのまま受け入れるわけにいきません。先方が求める仕様に対して『その要望はこちらの仕様の範囲内で達成できます』と説得し、理解してもらわなくてはいけない場合が多々あるわけです。要望1つひとつに対してこちらから提案を出し、双方にとって理想的な答えを探るという作業の繰り返しでした」

4月に担当を引き継ぎ、当初は年内に納入を開始したいと考えていた西口。だが先方との交渉ごとは増え続け、時間だけがどんどんと過ぎていく。最初の意気込みが強かった分、顧客に向かう足取りも重くなってきた。それでも上司の助言によって、緊張感を維持することができた。

「上司は私が営業1年目だったこともあり、こちら側のスケジュールはあまり気にしなくていいから、とにかく現場に行き倒して仕事を学べと言ってくれました。先方が抱える不安を解消するにはどういう資料を準備すればいいか、それをどう説明すればいいか。今まで気が付かなかったことを色々教えてくれました」

それから西口の営業スタイルが変わった。1つの要望に対して、3回くらい打ち合わせをする。参考になるような資料やデータは、相手が望まなくても提供し、担当者と一緒になって検討した。単に液化水素を導入してもらうという目先の利益だけを追い求めるのではなく、顧客に寄り添うプロジェクトの責任者然とした西口の姿があった。

それから数か月後、担当者から電話があった。

「西口さん、導入が決まったから。本当に長い間ありがとう」

「本当ですか。いやーよかった。こちらこそありがとうございます」

その日、西口が顧客に飛んで行ったことは言うまでもない。2人で祝杯を挙げた。

結局納入に至るまでの交渉は、1年ほどにもわたっていた。だがこの1年は西口にとって、さまざまな面で実りの多い時間でもあった。

「先方の担当者は私より二回りほども年上で、長年にわたって構内の機器管理をしてきたベテランです。それだけに安全第一は本当に徹底しています。前任者は私より10歳近く年上でしたが、私は営業1年目の新人。その私がやって来てあれこれ交渉しても、最初は思ったように言葉が届いていないという実感がありました」

今でも仕事で凹むことは多々ある、と語る西口。だが彼は同時に「反省はするが後悔はしない。」と割り切って、気分転換するタフさも持ち合わせていた。

「その時も、これは時間をかけて信頼関係を構築していくしかないなと、腰を据えたわけです。上司に同行してもらうこともありましたが、担当の私が自分の口で説明することで信頼してもらおうと努めました。お客さまの担当は私しかいませんよと言って」

当初は先方も不安に感じていたのでは、と振り返る西口。だが1年に及ぶ地道かつ誠意ある交渉を重ねて、ようやくお互いに言いたいことを素直に言えるようになったと確信できた。

「信頼してもらえるようになった決め手は、特にこれというのはありません。ただひたすら足しげく通って交渉を重ねていく中で、徐々に私の話に耳を傾けてくれるようになりました。地味なようですが、やはり地道なやり取りの積み重ねが信頼につながったのでしょう。またそのバックグランドとして、支店の先輩達のアドバイスも支えになってくれました。私のような本社の人間と支店の営業マンが一致団結して液化水素を営業していくというのが当社のスタイルですからね」

こうして約1年間にわたる粘り強い交渉の末、西口は初の大型案件をまとめ上げた。粘り強い交渉の甲斐あって、この案件は納入後も順調に稼働している。

「支店の営業マンが定期訪問していますが、私もよく足を運んで稼働状況を直接聞いたりしています。事前にいろいろ心配されていた部分も問題なく使っていただいていて、苦労をした甲斐がありました」

⇒〈その3〉へ続く

 


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