岩谷産業 西口眞敬
水素エネルギー社会に向け、
営業というフィールドで
夢を具現化する
ストーリー通りには進まない営業の世界
もっとも、初めて飛び込んだ営業の世界に、最初から苦もなく順応できたわけではない。そこには西口なりの苦労と努力があった。
「私が経験した技術部門と営業部門とでは、まず仕事の進め方のスピード感が全く違いました。プラント建設の仕事は数年がかりのプロジェクトですが、営業は個々の案件に求められる日々の細かいスケジュールをクリアしていかなくてはいけない。それともう1つ、ビジネスの相手が機械から人間に変わったというのも当時の私にとっては大きな変化でした」
岡山、広島、山口という中国エリアで、圧縮水素、液化水素の拡販営業を任された西口。相手は、産業用途で水素を利用する地元のメーカーなどだ。しかし前任者から引き継いだ顧客の対応だけでは意味がない。その合間に新規営業に携わることになった。これにも〝西口流〟がある。
「担当エリア内のどの会社なら需要が有りそうかを自分で調べて、リストを作って電話をしていきますが、未経験なのでまず面談のアポイントをどうやって取ればいいかさえ分からない。今では考えられないことですが、最初の頃は『初めての電話で何を喋ったらいいのだろう』と緊張しましたね(笑)」
水素業界の最大手とはいえ、地方の企業などでは岩谷産業を認識していないところも多い。そうした会社にまず当社の業務について知ってもらい、水素の導入につなげていくのが西口の役目だ。まず電話から面談につなげて、水素以外の取り扱い製品の話も臨機応変に織り交ぜながら、自社に関心を持ってもらえるようアピールする。しかし機械相手の仕事とは異なり、人間が相手では事前にこれがベストだと確信していたこともあっさり裏切られるのが常だ。
「それまで携わっていた技術の世界は、スケジュールとルールにしたがって1つずつステップを踏んで進めていくというやり方でした。ですが営業は、お客様ありきの世界。自分の中でこれがベストだと思ってもそのストーリー通りには進まないものですが、最初はうまく理解できなかった。今思うと私が悪いのですが、思い通りにいかない現実に戸惑うことの連続でした」
そうした中で先輩達から学んだのが、まず先方の意見に耳を傾けて、その中から最適な提案をしていくということ。西口はビジネスの最前線で、営業とは何かを1つずつ体得していった。
⇒〈その5〉へ続く