商社の仕事人(17)その5

2017年05月5日

日立ハイテクノロジーズ 住谷真裕

 

ゼロからビジネスを

立ち上げることに

意欲を燃やし続ける

 

新たな世界の広がり、経済産業省への出向

入社12年目のある日のことだった。住谷は「ちょっと時間あるかな」と上司に呼ばれた。上司は住谷の先に立って、いつも打ち合わせをするブースを通り過ぎ、その奥にある会議室へと向かった。何か変だなと住谷は、上司の背中を見ながら思った。改まって、何の話があるのだろうかと懸命に頭を捻ってみた。上司には、海外駐在をさせて欲しいという話を何度かしたことがあるので、もしかしたらその件についての話だろうか、と思ったりもした。だが、それにしては上司の表情がいくぶん固いように思われた。それでないとすると、何だろう。住谷には一向に想像がつかない。

会議室に入り、テーブルを挟んで向き合うと、上司が固い表情のままで切り出した。

「住谷君、急な話だけど、2年ほど経済産業省に出向してもらうことになったからね」

「……」

思ってもみない話だったので、さすがの住谷もしばらくは頭が真っ白だった。

「これは、政府が推進している官民交流制度に則ったものでね、君は日立ハイテクからの第1号の出向者になるんだから、しっかり頑張ってくれよ。頼むよ」

こうした経緯で、住谷は公務員の身分となって霞が関に通うことになった。それは住谷にとっては、まさかの「大事件」であったが、どんな環境に置かれても常に全力投球するのが住谷なのだ。多分、上司も住谷のそんな性格に期待して白羽の矢を立てたのだろう。しかし商材を扱うわけではないので、まったく勝手がわからない。

経済産業省の通商政策局中南米室が住谷の新しい職場となったが、仕事内容はこれまでと全く違うものである。

「私にとっては、それまでに経験したことがなかったような苦難の2年間でした(笑)。俺は何をやってるんだろう、とも思いました。しかし、その仕事を通して、経済産業省やJETROなどの人たちと知り合うことができ、今までの私の人脈とはまた違った方面の人脈ができたことは、今になってみると大きなプラスになったと思います」

無事に任期を全うし、公務員から再び商社パーソンに戻った住谷は、新しいビジネスの立ち上げをめざして積極的に動き回り始めている。そして、「会社には、ぜひとも期待して欲しいですね」と自信満々に語る。さらに、「将来的にはブラジルで思いっきり頑張ってみたいです」と自らの夢を語る。どうやら住谷は、根っからの商社パーソンのようだ。

この熱い男・住谷は、やはり自由で、広い世界の中にいてこそ絵になる男だ。

 

学生へのメッセージ

「夢や憧れを持って商社を目指すみなさんには、ちょっと厳し過ぎるかもしれませんが、私は、まずは自分のメシは自分で稼ぐという意識を持つことが大事だと言いたい。お金を稼ぐのは本当に大変ですが、そこはしっかりと踏まえておいて欲しいと思います。また、商社パーソンを目指すなら、新しいことを面白いと思える人間、どんな状況においても、どんな人とでも真摯に向き合い、適切に対応できる人間、何があっても逃げない人間、さらには心が折れそうになった時、周囲の人がサポートしてあげたくなるような人間になって欲しいと思います」

 

住谷真裕(すみや・まさひろ)

1976年岡山県出身。明治大学法学部卒。2001年入社。学生時代に、沢木耕太郎著『深夜特急』を読んで感化され、著者が旅したルートの一部をたどってみたりする。その旅を通じて、海外とつながりたいという思いを強くし、さらにそれを実現するチャンスが最も大きいのは商社だということで、商社志向を固める。趣味はキャンプ、休日はスポーツジムで汗を流す。

 

『商社』2016年度版より転載。記事内容は2014年取材当時のもの。
写真:葛西龍

 


関連するニュース

商社 2024年度版「好評発売中!!」

商社 2024年度版
インタビュー インターン

兼松

トラスコ中山

ユアサ商事

体験