長瀬産業 竹田成宏
「生活関連事業」という
新しいビジネスの柱を建てる
ヨーロッパに日本の新素材を売り込む
あらゆる業界に言えることだが、日本の化粧品市場も決して好調ではない。右肩下がりか、良くても横ばいだ。竹田が売り込むトレハロースも、日本のメーカーとの連携は維持しつつ、海外へ展開していくことが必須だ。
「アジアの新興国の人口を考えると、化粧品でもアジアの市場は魅力的です。ただし、化粧品の聖地はやはりヨーロッパ。この市場に斬りこんでいかなければ、持続的な成長は望めません」
竹田は2016年4月にバルセロナで開催される世界最大の化粧品原料の展示会「イン・コスメティック」への準備に奔走している。日本の場合、〝長瀬産業が扱う林原のトレハロース〟と言えば、業界で知らない人はいない。
「しかし、相手がヨーロッパの企業ではなかなか通用しません。まずは資料だけ送ってくれと言われれば良い方です。新素材の検討に権限を持つキーマンが掴めていないため、もどかしい思いをしています。イン・コスメティックには、世界中のキーマンが訪れますので、売り込みには絶好の機会なんです。とはいえ、参加すれば自動的に売れるというものでもありません。向こうのバイヤーの口癖は、〝What’s New?〟。その素材のどこが新しく、何が売りなのか、明確な提示を要求してきます。そして、その〝What’s New?〟に対して答えて行かなければなりません。トレハロースは非常に多岐にわたる性質を持っていて、併せる他の原料によっても違った特徴を表します。そのため、何をどこまでデータ化するかが鍵になる。それを読み解くには、狙う市場で何が求められているのか、丁寧なマーケティングを行う必要があるんです」
今は、お客さんの方がトレハロースを知っているぐらいで、〝こういうデータはないのか〟と問われることが多いと竹田は言う。化粧品は、直接肌に付けるものであるため、安全であることや、経過とともに劣化しない安定性など様々な要素が求められる。商品開発に一番ヒットするポイントは何かを分析し、いかにデータ化して行くかが、売り込みには不可欠だ。まして、市場が海外であれば、日本人との肌質や気候の違いも含めて調べる必要がある。とはいえ、全方位的にやっていたのではリソースが分散する。どこに狙いを定めて売っていくべきか、営業畑を経験してこなかった竹田が知りたかったことを、今、身を持って体験しているところだという。
「営業に移って1年が経ちましたが、時間が経つのが本当に早い。だからこそ、忙しさに流されないように、1年後、3年後を見据えて、今日やる仕事の意味を考えるようにしています」
常に自身の進むべき道を見据えて、全力で仕事に取り組む。そんな竹田が今、一番熱を入れているトレハロースという素材が、世界中の化粧品に用いられる日が来るのも、夢ではないかもしれない。
学生へのメッセージ
「いくつかの商社を受けましたが、例えば鉄鋼商社だと、取り扱うのは鉄。その点、化学系の商社である長瀬産業なら、樹脂やスマホや化粧品など様々なものを扱っていて、様々な業界を横断的に学びながら仕事ができると考えました。自分の性分として、〝これ1個だけ〟と限定されるのは、つまらないと感じてしまうんですよね(笑)。商社を志望する学生の皆さんには、とくに〝これをやっておいた方がいい〟というものはありません。せっかくの大学生活、やりたいことを存分にやったらいい。ただし、自分の意思というものをはっきりと持てるようにしておくべきだとは思います。商社の仕事は仕入れ先や販売店などお客さんの間に挟まれることが多い。あっちとこっちから異なる意見を言われることもあります。そんなとき、軸がぶれやすい人だとビジネスが上手く進みません。協調性は大切ですが、その中で決してぶれない軸を作っておくといいと思いますよ」
長瀬産業・竹田成宏
【略歴】
1985年和歌山県生まれ。関西学院大学経済学部卒。2007年入社。父親が商社パーソンであり、幼い頃から商社の仕事の面白さを聞かされて育ったことから、〝就職は商社〟と早くから考えていたという。
『商社』2016年度版より転載。記事内容は2014年取材当時のもの。
写真:葛西龍