メタルワン 池田賢太郎
大切なことは
〝自分がどう行動するか〟。
相手の国や言語は関係ない
インドの物流大動脈、ムンバイ・デリー間を結ぶ高速鉄道建設プロジェクト
実はこのプロジェクト、メタルワンとしては、10年ほど交渉を続けてきたものだった。今後著しい発展が予想されるインドの産業を支えるプロジェクトであり、このプロジェクトを受注することが、各国の鉄鋼メーカー、並み居る商社にとっての悲願であった。池田の前任者も、鉄鋼メーカーの担当者と共に何度も訪印し、プレゼンテーションを重ねていたものの、交渉には1つの大きな障壁が存在した。インド政府が許可している鉄道レールの規格が、日本の鉄鋼メーカーが作る規格と異なっていたことだ。
「100年以上前からレールを作り続けている鉄鋼メーカーです。レールのプロである、というプライドもあるし、技術的にも最先端なので、簡単には主張を曲げられません。一方で顧客も政府が許可している規格を簡単に変更することは出来ません。それが鉄鋼メーカーと顧客、両者の折り合いがなかなかつかなかった原因の1つです」
2012年、池田が担当となってからも、交渉は難航した。インドやオーストリアなど、他国の競合企業に負けないように、粘り強く何度も現地に出向いてプレゼンを行った。池田としては、交渉を進めている日本製のレールに絶対の自信があった。今回のプロジェクトで求められているのは高速鉄道向けのレールであり、運搬する対象も重量貨物が中心のため、レールにかかる負荷が大きい。また、レールが壊れて交換が必要になると、大きな機会損失が出てしまう。その点、硬性、耐摩耗性、長寿命性に優れる日本製レールは、このプロジェクトに最適な鋼材だ。取引先企業に対してのプレゼンテーションでは、池田自身も高い専門知識を駆使しながら、信念を持って日本製レールの優位性を主張した。
そんな時、日本企業にとって追い風となる出来事が起きた。これまでメタルワンが鉄鋼メーカーと共に行ってきた活動が実を結び、今回のプロジェクトに使用されるレールに、日本の鋼材を使用することが義務付けられたのだ。
その後の他の総合商社との戦いにおいても、これまで積み重ねてきた池田の根気強い交渉が功を奏し、2013年4月、遂にメタルワンの受注が内定した。
⇒〈その5〉へ続く